先日、会員様とレッスンの中で「表現」についてお話ししました。 レッスンで「もっと表現してみましょう」と言われても、何をどう変えればよいのか分かりにくいことがあります。     大きく吹く、小さく吹く。 テンポを揺らすアゴーギクや、ヴィブラートを採用する。      もちろん、それらも表現の一つです。 […]

「表現する」とは何をすることか─水墨画のように音色を描く【島村楽器 名古屋パルコ店|フルートインストラクター 森川健士】

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公開:2026年08月03日

更新:2026年08月03日

先日、会員様とレッスンの中で「表現」についてお話ししました。

レッスンで「もっと表現してみましょう」と言われても、何をどう変えればよいのか分かりにくいことがあります。

   

大きく吹く、小さく吹く。

テンポを揺らすアゴーギクや、ヴィブラートを採用する。

    

もちろん、それらも表現の一つです。

けれど私は、表現とはそれだけではないと思っています。

    

音の質感を感じ分けること。

その積み重ねが、音楽の表現につながっていくのではないかと思っています。

フルート・オカリナ インストラクター森川 健士

フルート・オカリナ インストラクター森川 健士

クラシックのフルート奏者として研鑽を積む一方、「和」の表現に定評がある。木製フルートを愛用し、尺八の技法であるムラ息、メリ、カリ等の奏法を取り込んだ音作りは、従来の西洋フルートの透明感に日本の陰影を重ねた音として評価を得ている。 ソロ・アンサンブルでのリサイタル、プロオーケストラの客演、その他商業施設や企業イベントでの演奏や、2025年パリ「Fête de la musipue」出演、メキシコ観光大臣ご一行の前での演奏等、様々な演奏活動を展開。 日本フルートコンヴェンション・アンサンブル部門金賞、同アンサンブルアワード部門入賞、その他コンクール入賞多数。 CBCラジオなどメディア出演もあり。

表現は、水墨画に似ている

私は音楽の表現を、水墨画のようなものだと考えることがあります。

     

水気を多く含んで、にじむような音、

乾いた筆で、筆の毛が紙に現れるような音。

よく擦った墨のように、濃く深い音、

薄い灰色のように、遠くへ溶けていく音。

     

同じ「墨」でも、そこには濃淡があり、かすれがあり、にじみがあります。

音も同じです。

ただ「大きい音」、「小さい音」ではなく、

      

濃いのか、淡いのか。

乾いているのか、湿っているのか。

近いのか、遠いのか。

      

そうした質感まで考えると、音の選び方は変わっていきます。

同じ色の中にも、たくさんの違いがある

濃い墨は、近く、重く、冷たく、

淡い墨は、遠く、明るく、柔らかく。

墨がかすれていれば、乾燥や光、ざらりとした質感を、

にじんでいれば、湿気や霧、空気の中に溶けていくような余韻を感じるかもしれません。

同じ墨でも、筆の状態や水分量、紙の質感によって、見える景色は変わります。

   

これは、音色にも近い感覚があります。

同じ音量で吹いていても、響きが密なのか、薄いのか、

輪郭がはっきりしているのか、空気に溶けていくのか。

  

そこには、単なる強弱では表しきれない違いがあります。

    

色の感覚が豊かな方は、音楽を考える時にも、さらに細かく感じ分けているのではないかと思います。

たとえば「青」と言っても、

     

水色なのか、原色に近い青なのか、

浅葱色なのか、紺色なのか。

     

空の青も、上を見上げた時の青と、地平線に近い青では違います。

海も、浅いところの青と、深く沈んで黒に近づいていく青では、感じるものが変わります。

     

もちろん、音を色で感じるかどうかは人それぞれです。

けれど、自分の中で「この音はどんな色なのか」「どのくらいの濃さなのか」と考えてみるだけでも、表現は少しずつ細かくなっていきます。

言葉を細かく感じるように、音も細かく感じる

会員様の中に、言葉を勉強された方がいらっしゃいます。

その方とお話ししていて、

たとえば、盛んに声や物音がしている様を表現するのに、

     

うるさい、やかましい、にぎやか、けたたましい…

     

と、多くの言葉があるよね、という話になりました。

どれも音が大きいことに関係する言葉ですが、そこにある景色や感情はまったく違います

     

雨の音も同じです。

     

ザーザー、しとしと、ぱらぱら、ぽつぽつ…

      

どれも「雨」ですが、感じる空気はそれぞれ違います。

     

音楽も、それに似ていると思います。

   

同じ涙でも、そこにある感情は一つではありません。

声を上げて泣くのか、静かに涙がこぼれるのか、

その涙は、悔しいからか、嬉しいからか、はたまた…

     

表現とは、感情を大げさにすることではなく、自分が感じたものをどれだけ細かく見つめられるかでもあると思っています。

リサイタル「触れる。」で試みたこと

こうした感覚を、自分なりに一つの演奏会として形にしようと考えたのが、2025年12月に行ったリサイタルでした。

日本の古典から、フランス近現代の色彩、戦争の気配、鳥の囀…

さまざまな息の質感を使いながら、自分の思う表現を届けたいと考えました。

     

私にとってフルートは、ただ音を正しく並べるための楽器ではありません。

息で線を描き音の濃淡を作り空気に触れていく楽器です。

自分だけの音の質感を探していく

レッスンでも、

「もっと表現して」

で終わらせるのではなく、

その音がどんな質感なのかを一緒に考えたいと思っています。

     

明るい音なのか、遠くにある音なのか。

近くでささやく音なのか、湿った空気の中にある音なのか。

乾いた光の中にある音なのか、霧の向こうにある音なのか。

そして、それを出すために、息の速さ、音の始まり方、響きの密度、ヴィブラートの幅、音の終わり方をどう選ぶのか。

     

表現は、表面的に何かを足すことではありません。

自分が感じているものを細かく見つめ、その音にふさわしい息を探していくことだと思います。

同じ「悲しい」でも、同じ「青」でも、同じ「静か」でも、その中にはたくさんの違いがあります。

その違いに気づいた時、音の選び方は少し変わります。

私はこれからも、一つひとつの音の色や質感を大切にしながら、その人にしか出せない表現を一緒に探していきたいと思っています。

     

島村楽器 名古屋パルコ店
フルート・オカリナ インストラクター
森川 健士

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