![CONTENTS「もっと練習すれば大丈夫」と思っていた華やかな音楽とは裏腹に局所性ジストニアという診断「今日は吹けるかもしれない」できない自分を許すこと再び誰かと音楽ができた日楽器が吹けることは、当たり前ではない「もっと練習すれば大丈夫」と思っていた 大学3年の冬。オペレッタ「メリー・ウィドウ」の練 […]](https://www.shimamura.co.jp/shop/nagoya/wp-content/uploads/sites/50/2026/06/20260619-617535145972597064.jpg)
音大生で局所性ジストニアを発症。私が再びフルートを吹けるようになるまで【島村楽器 名古屋パルコ店|フルートインストラクター 森川健士】
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- タグ管楽器講師・インストラクター
フルートインストラクター森川 健士
クラシックのフルート奏者として研鑽を積む一方、「和」の表現に定評がある。木製フルートを愛用し、尺八の技法であるムラ息、メリ、カリ等の奏法を取り込んだ音作りは、従来の西洋フルートの透明感に日本の陰影を重ねた音として評価を得ている。
ソロ・アンサンブルでのリサイタル、プロオーケストラの客演、その他商業施設や企業イベントでの演奏や、2025年パリ「Fête de la musipue」出演、メキシコ観光大臣ご一行の前での演奏等、様々な演奏活動を展開。
日本フルートコンヴェンション・アンサンブル部門金賞、同アンサンブルアワード部門入賞、その他コンクール入賞多数。
CBCラジオなどメディア出演もあり。
CONTENTS
「もっと練習すれば大丈夫」と思っていた
大学3年の冬。
オペレッタ「メリー・ウィドウ」の練習中のことでした。
それまでも、
「今日は左手が動きにくいな」
「なんだか指がもつれるな」
と感じることはありました。
しかし、そのたびに練習で乗り越えてきた私は、
「もっと練習すれば大丈夫」
「努力が足りないだけだ」
と思っていました。
ところがある日、初心者でも吹けるような簡単なフレーズが、どうしても吹けなくなったのです。
できない自分に腹が立ちました。
何度も吹き直しました。
けれど、吹けば吹くほど、ますます思うように吹けなくなっていきました。
そして気づけば、演奏しながら涙が止まらなくなっていました。

華やかな音楽とは裏腹に
「メリー・ウィドウ」は、とても華やかで美しい作品です。
しかし、その頃の私の心は暗闇の中にありました。
「次のフレーズは吹けるだろうか」
「また指が動かなくなったらどうしよう」
そんな不安ばかりを抱えていました。
本番を迎えることも怖くなっていました。
なんとか演奏を終えることはできました。
けれど、終演後も達成感はありませんでした。
むしろ、自分の中の暗闇はさらに深くなっていったように思います。
局所性ジストニアという診断
近所の整形外科。愛知県の大きな病院。そして東京の専門病院。
いくつもの病院を回り、ようやく告げられた病名。
局所性ジストニア。
フルートを持った時だけ、左手の中指と薬指が自分の意思とは関係なく動かなくなる病気でした。
特効薬はなく、一生付き合っていく可能性もある。
その現実を受け入れることは簡単ではありませんでした。
「一時的な不調であってほしい」
「時間が経てば元に戻ってほしい」
そう願いましたが、現実は変わりませんでした。

「今日は吹けるかもしれない」
その後しばらく、楽器を吹くこと自体が怖くなりました。
「どうせ今日も吹けない」
そう思いながらケースを開ける。
それでも心のどこかでは、
「今日は元に戻っているかもしれない」
と期待してしまう。
しかし現実は変わりません。
そんな毎日を繰り返していました。
フルートしかやってこなかった私にとって、
「楽器が吹けなくなる」
ということは、声や手足を失うような感覚でした。
何もできなくなっていく自分が惨めで、情けなくて。
それでも、どうしてもフルートを諦めることができませんでした。
だからこそ、
「いっそ左手がなくなってしまえば、諦めることができるのだろうか」
そんな極端なことを考えてしまうほど、追い詰められていました。
それほどまでに、私にとってフルートは人生そのものだったのです。
できない自分を許すこと
大学を休学し、リハビリの日々が始まりました。
その過程で、私はアレクサンダーテクニークと出会います。
そして、人生の道しるべとなる先生にも出会うことができました。
その先生が教えてくださったのは、
「できない自分を責めなくていい」
ということでした。
音が出なくてもいい。
上手に吹けなくてもいい。
できない日があってもいい。
それまでの私は、
「できて当たり前」
「上手く吹けて当たり前」
と思っていました。
だからこそ、できなくなった自分を許すことができませんでした。
しかし少しずつ、そんな自分を受け入れることを学びました。
それは演奏技術以上に、人生を大きく変える学びでした。
再び誰かと音楽ができた日
コロナ禍ということもあり、リハビリ期間中は一人で黙々と練習を続けていました。
そして復学後、吹奏楽の授業で《春の猟犬》を演奏する機会がありました。
久しぶりに仲間と音を重ねる。
久しぶりに誰かと一緒に音楽をする。
その瞬間、
「誰かと音楽ができる」
そのこと自体が、どれほど幸せなことなのかを改めて知りました。
演奏しながら、自然と涙が溢れてきました。
上手く吹けたからではありません。
誰かと一緒に音楽をできる。
その喜びが、ただただ嬉しかったのです。
楽器が吹けることは、当たり前ではない
今でも、学生時代のように思い通りに動かないことがあります。
それでも私はフルートを吹いています。
そして、今日も音楽ができることに感謝しています。
高音がかすれてもいい。
低音が割れてもいい。
指が転んでもいい。
完璧でなくてもいい。
楽器が吹けることは、決して当たり前ではありません。
今日も元気に楽器を手に取ることができる。
それだけで、とても素晴らしいことなのです。
もし今、
「思うように吹けない」
「周りと比べて苦しい」
「できない自分が嫌になる」
そんな悩みを抱えている方がいたら、お伝えしたいことがあります。
上手く吹けなくても大丈夫です。
音楽は、完璧な人だけのものではありません。
できない自分を責めなくてもいい。
今日も音楽ができる。
その喜びを、私はこれからも大切にしていきたいと思っています。
島村楽器 名古屋パルコ店
フルートインストラクター 森川 健士
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