フルートを吹いていると、 「なぜ尺八のような吹き方をするのですか?」 と聞かれることがあります。 私は普段、クラシックのフルートを演奏する一方で、尺八も学んでいました。 そして今では、尺八から学んだことが私の音楽の大きな柱になっています。 今回は、私がなぜ「和の音」に惹かれるようになったのかについて […]

フルートで尺八の曲を吹く理由─《鶴の巣籠り》がおしえてくれた一音と間の美しさ【島村楽器 名古屋パルコ店|フルートインストラクター 森川健士】

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公開:2026年07月12日

更新:2026年07月12日

フルートを吹いていると、

「なぜ尺八のような吹き方をするのですか?」

と聞かれることがあります。

私は普段、クラシックのフルートを演奏する一方で、尺八も学んでいました。

そして今では、尺八から学んだことが私の音楽の大きな柱になっています。

今回は、私がなぜ「和の音」に惹かれるようになったのかについてお話ししたいと思います。

フルートインストラクター森川 健士

フルートインストラクター森川 健士

クラシックのフルート奏者として研鑽を積む一方、「和」の表現に定評がある。木製フルートを愛用し、尺八の技法であるムラ息、メリ、カリ等の奏法を取り込んだ音作りは、従来の西洋フルートの透明感に日本の陰影を重ねた音として評価を得ている。 ソロ・アンサンブルでのリサイタル、プロオーケストラの客演、その他商業施設や企業イベントでの演奏や、2025年パリ「Fête de la musipue」出演、メキシコ観光大臣ご一行の前での演奏等、様々な演奏活動を展開。 日本フルートコンヴェンション・アンサンブル部門金賞、同アンサンブルアワード部門入賞、その他コンクール入賞多数。 CBCラジオなどメディア出演もあり。

衝撃だった《鶴の巣籠り》との出会い

私が尺八に強く惹かれたきっかけは、師匠が演奏する琴古流古典本曲《鶴の巣籠り(奥州伝)》を聴いたことでした。

それまでの私は、尺八に対してどこか古典芸能のようなイメージを持っていました。
しかし実際に聴いたその音楽は、私の想像とはまるで違っていました。

鶴の鳴き声を模したような音。

羽ばたく姿を思わせる表現。

息遣いそのものが音楽になっている世界。

それは何百年も前の音楽とは思えないほど生々しく、現代にも通じる表現でした。

そして何より驚いたのは、その音楽が江戸時代頃から受け継がれているということでした。
西洋音楽で言えば、モーツァルトやベートーヴェンが生きた時代です。

そんな時代に、自然や動物の姿をここまで具体的に表現しようとしていた人たちがいた。

私はそこに大きなロマンを感じました。

尺八が教えてくれた「間」の美しさ

尺八を学ぶ中で、私はあることを学びました。

それは、

「音を出すこと」と同じくらい、「音を出さないこと」が大切だということです。

フルートはとても表現力豊かな楽器です。
音域も広く、多くの音を使うことができます。

一方で尺八は、音域も限られていますし、演奏できる音の数も決して多くありません。

しかし、その限られた音の中に驚くほど豊かな世界があります。

音が鳴る瞬間。

音が消えていく瞬間。

そして音と音の間にある沈黙。

尺八は、その全てを音楽として扱います。

むしろ、

「次の音をどう鳴らすか」

よりも、

「音が消えた後に何を残すか」

を大切にしているように感じます。

その考え方は、私の音楽観を大きく変えました。

日本人だからこそできる表現

学生時代、レッスンの中で音の後押しをした時に、

「日本の曲じゃないんだから」

と言われたことがあります。

当時の先生の言葉は正しかったと思います。

クラシック音楽には、その時代や文化に根ざした様式があります。
だからこそ、それを学ぶことは大切です。

しかし今は、それと同時に思うことがあります。

日本人だからこそ感じられることもあるのではないか、と。

日本で育ち、日本語を話し、日本の四季の中で生きてきた。
その感覚は、私の音楽の一部です。

尺八を学ぶことで、私はそんな自分自身のルーツを見つめ直すことになりました。

フルートで尺八を吹くという挑戦

フルートの世界では、ヴァイオリンやクラリネットの作品を演奏することは珍しくありません。
しかし、尺八の古典本曲を演奏する機会はほとんどありません。

私はそこに大きな可能性を感じています。

尺八には、まだあまり知られていない素晴らしい作品がたくさんあります。

そしてフルート人口は、尺八人口よりも圧倒的に多い。

だからこそ、フルートという楽器を通じて、日本の古典音楽の魅力を伝えていけるのではないかと思っています。

一音に魂を込める

速いパッセージを吹く。

難しい技巧を習得する。

それも演奏の大切な要素です。

しかし尺八は、私に別の価値観を教えてくれました。

たった一音。

たった一つの息遣い。

たった一瞬の沈黙。

そこにどれだけの想いを込められるか。

少ない音で人の心を動かすことは、実はとても難しいことです。

だからこそ私は今も尺八に憧れています。

そして、いつかフルートでもその世界に近づきたいと思っています。

それが、私が「和の音」に惹かれ続ける理由なのです。

島村楽器 名古屋パルコ店
フルートインストラクター 森川 健士

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