スーツ姿にターバン…『THE FIRST TAKE』で異彩を放つマハラージャンの音楽遍歴と“ゴールデンギター”の謎に迫る【後編】

タイトなスーツ、ターバン、メガネ、大きなリングピアスという一見風変わりな衣装に身を包み、ソウルやファンクといったブラックミュージックから多幸感に富んだエレクトロサウンドまで、グルーヴィかつ上質な音楽を武器に、2021年3月にEP「セーラ☆ムン太郎」でメジャーデビューを果たしたマハラージャン。

後編ではそんな彼の相棒ともいえるゴールデンギターの誕生秘話からギターや音楽に対する想いまで、マハラージャンに熱く語ってもらった。

(アイキャッチ写真撮影:小境 勝己)

前編はこちら

自分の憧れを追い続けること、それが自分にとっていい結果を招く

デビューするまで信じて、その1本だけでやってきた

――音楽活動を本格的に始めた頃、どのようなギターを使っていましたか?

マハラージャン:HISTORYのGH-S1Mというモデルで、大学2年生の時に買いました。なぜそれを買ったかと言うと、周りの人がみんなFenderとかGibsonとか有名メーカーのギターを使っていて、良い言い方をするために一度嫌な言い方をすると、腕前がないのにメーカーに頼っているように見えちゃって。だから、人とは違うギターを弾きたいと思っていたんです。で、楽器屋さんでいろいろなギターを弾かせてもらっていた時、“HISTORYって名前は聞いたことがあるけど、弾いたことがないから弾いてみよう”と思って弾いたらすごくローが出たんです。買った理由のひとつに、木材にタイムレス・ティンバーを使っていたのもあります。タイムレス・ティンバーはアメリカやカナダの湖底に沈んでいた古い木材のことで、それを乾燥させて使っているんです。ギターって何かとヴィンテージって言われるし、古い木材のほうが良さそうだと思って。あとは、国産メーカーのほうが海外メーカーよりも輸入の関税とか通っていないから、品質以上に価格が安いんじゃないかと思って(笑)。

HISTORYのGH-S1M(左)、ゴールデン・ギター(右)

――(笑)。それは今でも使っていますか?

マハラージャン:ずっと使っています。デビューするまでそれを信じて、その1本だけでやってきましたから。

――そこまでHISTORY1本にこだわる理由は何だったのですか?

マハラージャン:ひとつは、ギターって弾けば弾くほどボディ内の水分が抜けていい音になると聞いていたし、そのタイムレス・ティンバーをすごく信じていたんです。だって、カナダの底に沈んでいた木材って水圧の影響も受けて普通の木材とは違うだろうし、それをずっと弾きこなしている人もあまりいないんじゃないかなと思って。あとは、ギターは1本さえ信じてしまえばあとは自分の腕次第だと思っていた部分はあります。

――今はゴールデン・ギターと呼ばれている、HISTORYの金色のオリジナルモデルを使っていますね。

マハラージャン:そうなんです。ずっとそのHISTORYのギターだけを信じて活動してきて、デビューしたりいろいろある中で、制作が落ち着いた時にギターを見てみたらフレットが尋常じゃないくらい擦り減っていて。メンテナンスに出そうとたまたま行ったお店が、どうやらGH-S1Mを開発したうちの1人であるルシアーの駒木さんという方がいるお店で。そこで駒木さんと知り合って、僕がこの1本だけでやってきたという話に感動してくださって、“今後も活動するのであれば、例えばゴールデン・ギターを作るのはどうですか?”と言われて、“じゃあ作ってみましょう”という話から作ってもらいました。で、新品のGH-S1Mが倉庫にあったみたいで、弾き比べをさせてくれたんです。そうしたら、僕が弾いてきたGH-S1Mのほうが圧倒的に枯れた音で全然違うんですよ。“ほら見たことか”と、それが本当に嬉しかったですね(笑)。

マハラージャンとルシアー駒木(右)

――オリジナルのギターを作るという話になった時、マハラージャンさんからのリクエストはありましたか?

マハラージャン:目立って変わったギターにしたいという想いがあって、あとは“音がとにかくいいギターにしてほしい”と伝えました。僕はナイル・ロジャースが好きなんですけど、ナイル・ロジャースってメイプル指板のストラトを弾いているんですよね。だからメイプル指板がいいなと思っていたんですけど、ローズウッド指板でカッティングをしたらどうなるんだろう?と思って。あと、創業数百年の金箔の塗装屋さんと新規に取り引きしてくださって、ちょっと特殊な塗装なんですよね。スイッチが赤なのですが、これは実は『スター・ウォーズ』の最新のC-3POが片腕だけ赤くて、“金に赤っていいな”と思ってそれもちょっとイメージしました。

撮影:小境 勝己

――ボディの光沢感もめちゃくちゃいいですね!

マハラージャン:そうなんですよ。そこはもう本当に駒木さんに頑張っていただきました。何より音がいいですね。ローズウッド指板の影響だと思うんですけど、カッティングを弾く時も粘っこいというか芯がすごくある。家でもずっとこのゴールデン・ギターばかりを弾いています。

――本当に理想の1本ですね。

マハラージャン:めちゃ気に入っています。サポートギタリストの方に弾いてもらうと、“めちゃくちゃいいね”って言われます。

やりたいことがあれば今すぐやったほうがいい

――マハラージャンさんにとって、ギターとはどんな存在ですか?

マハラージャン:今や自分を表現するのに欠かせない道具ですね。カッティングを褒めてもらうことがあるのですが、そのカッティングにもすごく個性が出るなと思っていて。自分にしか弾けないカッティングも、今持っているギターのおかげだと思いますし欠かせないものですね。

――プレイヤーとしてミュージシャンとして、今後の目標があれば教えてください。

マハラージャン:歴史に残る名曲は世の中にたくさんあると思うんですけど、まずは大ヒット曲を作りたいです。例えば、布袋寅泰さんの『キル・ビル』の曲(「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」)とか。他にはない曲ですし、すごいインパクトだし、聴けばみんなわかるし。あとはクインシー・ジョーンズの「ソウル・ボサノヴァ」とか。あれはもうあれでしかないというか。あとは、ワンマンをやりたいとかを超えてドーム・ツアーをやりたいですし、できれば世界中の人に聴いてもらいたいですし、海外のフェスにも出させてもらいたいです。この間も東京ドームの前を通った時、“ここのお客さんいっぱいにしなくちゃいけないんだ”“頑張らなくちゃいけないな”と思いました(笑)。目標は大きくいきたいですね。

――マハラージャンさんは社会人として仕事をする中で、音楽の道に一歩踏み出すことで未来を切り開いてきたと思います。これから音楽を始めようか悩んでる人に向けて、先輩からアドバイスをいただけたら。

マハラージャン:今はSNSを活用すれば、自分の演奏を好きなように発信できるじゃないですか。会社員だろうがプロだろうがそこは関係なくて、仕事をしながらでも音楽はできると思うんです。なので、やりたいことがあれば今すぐにやったほうがいいと思います。あと、楽器を上手くなるコツって “好きになれるかどうか”だと思うんです。弾きたい曲とか表現したいことがあるほうが上達しやすいんですよね。僕の場合、教則本から入ると“何か面倒臭いや!”って止まっちゃうタイプだったので、“この曲のこのフレーズを弾きたい!”と思うのが上手くなる近道だと思います。自分の憧れを追い続けること、それが自分にとっていい結果を招くと思います。


そのルックスからさぞかしファンキーな方なのかな…と思いきや(失敬!)、謙虚で言葉を選ぶようにインタビューに答えてくれたマハラージャン。

思い立ったらすぐに行動に移すこと、夢を描き続け探究すること、そして音楽に対して真摯であること。当たり前のことだけど、日々の中で忘れてしまいがちなことに気づかせてもらえます。もちろん、このインタビューを読んだらマハラージャンさんの音楽をチェックするのをお忘れなく。

毎日がちょっぴり楽しく、前向きにさせてくれる“スパイス”を与えてくれること請け合いです。

プロフィール

https://www.youtube.com/channel/UCSNaYAKRdsg6VaR6rI0lp2Aマハラージャン
東京都出身。社会⼈になってから感じた強烈な劣等感や、耐えがたい苦悩、屈辱に苦しんだ結果、 スパイス × ダンスミュージック という現在のスタイルに辿り着く。 働き方改革が問われる現代が産み落とした、スパイス香るアジアの異端児。 2019年11月に、作詞・作曲・編曲・演奏まで一人で手がけたデビュー作「いいことがしたい」をリリース。 ミックスを髙山徹、マスタリング・エンジニアをBernie Grundmanが担当した本作は、配信のみのリリースながらそのジャケットのインパクトからは想像もつかない洗練されたサウンド、そして社会人なら共感必至のどこかシニカルなリリックに、耳の早い音楽関係者やリスナーが病みつきとなり、全く無名ながら各音楽配信サイトで注目アーティストとして紹介され、全都道府県のラジオ局で楽曲がオンエアされるなど話題を呼ぶ。 2020年4月に、2nd EP「ちがう」をリリース。 前作に引き続き、その確かな音楽性を確信したディーラーからオファーを受け、 前述の2枚のデジタルEPをコンパイルし、ゴダイゴ「MonkeyMagic」のカバーを追加収録した初パッケージ作品をタワーレコード限定で販売。 同作品のヴァイナルもリリースされるなど、現在もロングセールスを記録している。

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この記事を書いた人

溝口 元海

エディター、ライター、フォトグラファー。