私と楽器屋さん Vol.06 ~アーティストとリペアスタッフ~

18歳で彼女を追って上京、翌年に彼女と破局、バンドの結成、KH‒CYGNETと島村楽器との出会い…。事実は小説よりも奇なりと言うが、オシロスコープのボーカル&ギターであるサトウリョウタさんも、そんな人生を歩んでいる1人だろう。彼をサポートしたのが、新宿PePe店でリペアを担当していた池田さん(現在は梅田ロフト店勤務)。どことなく雰囲気が似ている2人は、まるで見えない絆で繋がっているかのようだ。

サトウリョウタさん(左)と池田知子さん(右)

どんな調整をしようかと雑談しながら夢を膨らませた

サトウさんが初めて島村楽器を訪れたのは、出身地である山形県から上京してすぐの18歳のとき。約7年前のこと。当時付き合っていた彼女を追いかけて上京した彼は、職場を御茶ノ水にするほどの大の楽器好き。しかし、19歳の頃に思わぬ悲劇が彼を襲う。

サトウさん 彼女の浮気が発覚して別れました(笑)。何のために上京したのかわからなくなって…。当時はホテルのレストランでウェイターをしていたのですが、職場で知り合った皿洗いの大学生から“一緒にバンドしませんか?”と声を掛けられて。それがバンド活動を始めたきっかけです。その子が進学で抜けてしまうということで新たに今のバンド、oscilloscope.(オシロスコープ)を結成したんです。

そして、あるギターとの出会いが島村楽器とサトウさんを繋ぐ架け橋となる。

サトウさん 16年頃かな、渋谷の路上でシンガーソングライターのMayuさんのライブを見たんです。そこでMayuさんがプロデュースしたKH-CYGNET(KAMINARI GUITARSとHISTORYのコラボモデル)に一目惚れして島村楽器で購入しました。それからですね、島村楽器によく行くようになったのは。彼女と別れてからバンドを組んだので、その気持ちを前面に押し出してガシガシ弾いていたせいか弦落ちしまくって(笑)。そこでリペアを担当してくれたのが池田さんでした。

柔和な雰囲気のサトウさんだが、ギタープレイは「人が変わったようでびっくりしました(笑)」と池田さんも話すほどの豹変ぶり。池田さんの印象について、サトウさんはこう話す。

サトウさん 物腰が柔らかくて、何でも話しやすい人だなと。リペアマンというと、男性でがっちりした職人気質の人というイメージがあるけど、池田さんはそれがいい意味でない(笑)。話しやすいし相談もしやすくて、サウンド面でもアドバイスをくれます。ふらっとお店に立ち寄ってはギターを見てもらって、次はどんな調整をしようかと雑談しながら夢を膨らまして。楽しい時間でした。

島村楽器は一番身近で相談できる“ご近所さん”のような存在

調整箇所は、ペグ/ピックアップ/ピックガード/ジャックプレートと多岐に渡る。特に印象に残っているのは“コンデンサーのお試し会”だ。

サトウさん コンデンサーの交換はハンダ付けで行うから、普通はパーツを購入して行うんですけど、池田さんがハンダ付けせずに交換できる状態にしてくれて6種類くらい試しました。それまでは正直、コンデンサーの違いってよくわからなかったんだけど、池田さんが提案してくれたおかげでここまで音が変わるんだと気付いて。時間も忘れて没頭しました。

気がつけば、島村楽器もこのギターも、彼にとってかけがえのない存在になっていた。

サトウさん 愛着のある1本です。もう一生手放せないですよ。ボディ裏にはMayuさんのサインまで書かれているし(笑)。初めてのMV撮影や、初めてCDを作ったときもこのKH-CYGNETですべて録りました。それを見たHISTORYの担当の方から声を掛けてもらってHISTORYのアーティストページやポスターにも載せていただいたり、本当に多くの出会いをもたらしてくれたギターなんです。

彼女との別れで一時は失意のどん底だったが、それがきっかけでバンドを組み、このギターと出会い、今の彼にとってのアイデンティティになっているとは人生は数奇だ。そんな彼にとって、島村楽器はどんな存在なのだろうか。

サトウさん 一番身近で相談できる、“ご近所さん”のような存在ですね。あれ?と思ったらすぐに池田さんに連絡するので(笑)。憩いの場というわけではないけど、世間話だけをしに来ることもあります。そう思える楽器店って少ないけど、それは池田さんがいるから。売り買いだけの関係だったら話題も少ないけど、ギタリストとリペアマンだから共通言語もたくさんある。一緒にこのギターを作ってきた感じがあるので。

奇しくも、この取材の次の週に池田さんが大阪・梅田ロフト店に転勤。距離が離れても、2人の関係はまだまだ続いていきそうだ。

サトウさん 池田さんのおかげでギターを改造することにも積極的になりましたし、今は音楽スタジオでバイトをしているんですけど、そこでギターを調整することもあるんです。そういうものに興味を持たせてくれたのは池田さんのおかげなので、感謝しかないですよ。僕がツアーで大阪に行ったときは、またよろしくお願いします!

こちらの記事は、2019年6・7・8月号に島村楽器(株)の社内報に掲載した記事を一部編集し、出演者の許諾を得て転載しております。

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この記事を書いた人

溝口 元海

エディター、ライター、フォトグラファー。ギター・マガジンやRolling Stone Japan、Go!Go!GUITARなどで執筆。