「練習って大変…」そう感じるとき、どうしていますか? 国際的に活躍するピアニスト3人に聞いてみた。

音楽はとても楽しいもの。楽器が上手に演奏できたら、その楽しさはもっと大きく広がります。でも楽器が演奏できるようになるには練習という壁があり、そこを乗り越えられるか心配……という方も多いでしょう。そこで、今大活躍中のピアニストの皆さんに、どうやってその壁を乗り越えてきたか聞いてみました。その答えの中には、練習と音楽をもっと楽しむためのヒントがたくさんありましたよ!

「目標となる、あるいは尊敬する人物を見つけ、自身を磨こう」

まず登場していただくのは髙木竜馬さん。2歳からピアノを始めた髙木さんは、高校生の時ウィーンに留学、これまで7つの国際コンクールで優勝している実力派です。アニメ「ピアノの森」では、主人公の親友にしてライバルである雨宮修平のピアノ演奏を担当し話題になりました。

髙木竜馬さん
©三好 英輔

ー髙木さんは小さい頃からずっとピアノを弾いていますが、練習が嫌だとか、大変だと感じることはありましたか。

髙木:母がピアノ教師で父も音楽好きの両親の元で育ったため、ピアノに向かうのはごくごく自然なことでした。そのため、練習が嫌になった経験はありません。もちろん今でも、練習が大変なときはあります。何度練習をしても弾けない場面もあります。それでもそのようなときには、その困難を超えた先には成長した自分がいると信じて、根気強く向かうほかありません。

ー何度練習してもできない……。楽器を練習していると、誰もが必ず感じるときがありますね。でも「ここを超えた先には成長した自分がいると信じる」、それが髙木さんの練習への原動力なのですね。それでも練習が大変だと感じる時は、どう乗り越えていますか。

髙木:モチベーションを失いかけたときには、自分よりはるか先にいる人や、尊敬する音楽家の演奏を聴くようにしています。「最も成功している人は、最も努力している人だ」。これは私のモットーでもありますが、そういった方々の演奏を聴くと、自分がモチベーションを失っていることがいかに馬鹿馬鹿しいことかと思うようになり、身体の源からふつふつとエネルギーが湧いてくるのです。

ーすばらしい演奏に聴き入ると、いつか心のモヤモヤがすーっと晴れていくことがあります。こんな美しい音を奏でる演奏家でさえ毎日努力している。そう考えたら「よし、自分ももっと練習してみよう!」と勇気が湧いてきますね。過去の偉大な演奏家や、先輩たちの演奏を聴くほかに、髙木さんが重要だと思っていることはありますか?

髙木:先ほどの話とつながりますが、目標となる、尊敬する人物を見つけることは大切です。私自身、演奏会に足しげく通い、一流の演奏家から感動と刺激をもらい、先生のレッスンからは一生を共にするような金言(きんげん)を頂戴し、そして友人とは互いにレッスンをし合って励まし合い、切磋琢磨をしています。そのような存在は、音楽を深めるためにも、そして人間を磨くためにもとても大切なのであります。

ー演奏会で感動すること、レッスンで先生から言葉をもらうこと、友達と一緒にレッスンをすること、それがすべて上達につながっていくのですね。ひとりより仲間や先生と一緒に練習する、そして時にはすばらしい演奏を聴きに行く。そうすることが音楽を何倍にも楽しくしてくれそうです。最後に、楽器の練習をがんばっている人に向けてメッセージをいただけますか。

髙木:音楽は、人の心を豊かにする魔法のようなエネルギーをもっています。私自身、人生において悩むことは常に音楽についてですが、それと同時にそんな自分を救ってくれるのも、また音楽なのです。練習をすればするほど、上手くなりますし、音楽がより身近に寄り添ってくれるようになります。がんばって練習をしたその先には、広大な魅力あふれる世界が広がっています!

ー国際的に活躍している髙木さんが見る「広大な魅力あふれる世界」とはどんなものなのか想像もつきませんが、練習を続けて上達することで、今と違う自分になれるのは間違いありません。どんな自分に出会えるか、どんな世界が見えるかを楽しみに、練習を続けていきたいものですね!

髙木竜馬さん
©池上 夢貢

髙木竜馬 プロフィール

2018年9月に第16回エドヴァルド・グリーグ国際ピアノコンクールにて、優勝及び聴衆賞を受賞し、一躍世界的に脚光を浴びる。その他にも第26回ローマ国際ピアノコンクールなど、7つの国際コンクールで優勝。NHK総合テレビ『ピアノの森』では、雨宮修平メインピアニスト役で出演し、大好評を博す。2019 / 2020 シーズンでは小林研一郎氏、尾高忠明氏の指揮により3回に亘って東京フィルハーモニー交響楽団と共演した他、オスロフィルハーモニー管弦楽団との共演、ウィーン楽友協会やエルプフィルハーモニー等でのリサイタルなど、日本とウィーンを拠点に多方面で活躍。渋谷幕張高校在学中に、ウィーン国立音楽大学に合格。大学院を最優秀の成績で卒業し、現在は同大ポストグラデュエート課程に在学。併せて、イモラ国際ピアノアカデミー開校30年の歴史で6人目となる『マスター』の称号を得て卒業し、同大ポストグラデュエート課程に在学。(公財)江副記念リクルート財団 第35回奨学生。公式ホームページ:ryomatakagi.com 公式Twitter:@Ryomatakagi

「聴いてくれる方と感動を分かち合う経験が、継続の糧に」

続いて登場するのは岩崎洵奈(いわさき じゅんな)さん。東京藝術大学を卒業し、現在はドイツに在住されている、期待の日本人若手ピアニスト。数々のコンクールに入賞し、ヨーロッパや日本を中心にオーケストラとの共演やリサイタルで活躍。マスタークラスやアウトリーチ活動など、音楽による交流にも力を入れています。

岩崎洵奈さん

ーピアニストになるためには、小さい頃からの地道な練習が不可欠というイメージがあります。岩崎さんは、練習が嫌になったことはありましたか?

岩崎:小さい頃は身体を動かすことが好きだったので、ずっと座っていることが退屈に感じ、練習がつらいと思ったことがありました。しかし、ピアノの音や響きは好きだったので、弾いていてつまらないと感じたことは一度もありません。

ー練習のつらさより、ピアノの音色の魅力のほうが大きかったのですね。確かに、もともと楽器は美しい音を奏でるためにあるもの。少し練習に疲れたときは、ゆっくりとした曲を演奏して音の美しさに浸ってみるといいのかもしれません。他に、岩崎さんがここまで練習を続けてこられた理由はなんでしょうか?

岩崎:私の場合、発表会やコンクールがあることでモチベーションを保てました。夢中になって表現し、音楽と一体化できた感覚は、日常のどの喜びよりも大きいと考えているからです。聴いてくださる方と音楽を分かち合い、その表現がコンクールで結果として認めていただけたことが、継続につながったと思います。

ー「夢中になって表現し、音楽と一体化できた感覚は、日常のどの喜びよりも大きい」という言葉がステキです。発表会やコンクール前に、強いプレッシャーの下で練習するのがつらい……そう思う人も多いでしょう。でも発表会やコンクールは、お客様と音楽の楽しさを分かち合える格好の機会でもあるんですね。その瞬間を大切にしたいという思いがあれば、大変な練習でも続けていけそうです。

岩崎:一人でオーケストラを表現できるピアノという楽器は、ダイナミックで華やかで、無限の可能性を持った楽器です。日々の練習プラス、オーディションや人前で弾くなど積極的に演奏を聴いてもらえる場に参加すると、人と感動を共有できます。また、コンサートを聴きに行ったり、マスターコース(第一線の演奏家等による、高度な内容のレッスン)に参加したりすることも、大きな刺激となり、大事なステップとなると思います。

ー「人と感動を共有する」、それは音楽の大きな魅力のひとつです。そしてコンサートを聴きに行くと、奏者から何を感じ取れるか、演奏を聴いてどのようにして感動に至るのか、聴き手の立場で発見することもきっと多いですよね。ぜひ気になるコンサートに足を運んでみてはいかがでしょうか。最後に、岩崎さんの練習の大きな励みになっていることを教えていただけますか?

岩崎:発表会、コンクールもそうですが、初めてグランドピアノを買ってもらったときのことは鮮明に覚えています。自分の一番好きな音色を持つピアノを選び、指折り数えながら新しいグランドピアノが届くのを待っていました。その後も、大学生になったとき、留学先で素晴らしい楽器に出会い、表現の幅が大きく広がり、弾ける曲が増え、自分の可能性が広がった経験は人生の宝物です。

好きな楽器が自分のものになったときはとても嬉しいですね。そのワクワクは誰もが感じたことがあるはず。練習に行き詰まったときは、もう一度あのときの楽しい気持ちを思い出しながら、じっくりと自分の楽器の手入れをしてみるのも、良い気分転換になりそうです。

岩崎洵奈さん

岩崎洵奈 プロフィール

東京藝術大学器楽科ピアノ専攻卒業。ウィーン国立音楽大学及び大学院ピアノ演奏科を審査員満場一致の最優秀で卒業。数々の国際コンクールで入賞を重ね、2010年第16回ショパン国際ピアノコンクール(ワルシャワ)においてディプロマ賞受賞、審査終了後、審査員のマルタ・アルゲリッチ氏より賞賛を受ける。2012年度、CHANEL Pygmalion Daysアーティストに選出。2013年、2月、NHK-FM「リサイタル ノヴァ」に出演。これまでに三ツ橋敬子指揮セントラル愛知響定期演奏会、名古屋フィル、現田茂夫指揮神奈川フィル、西本智美指揮神奈川フィル、松村秀明指揮九州響、岩村力指揮東京シティ・フィル等と共演を重ねる。2015年日本アコースティックレコーズより、デビューCD「J First」を、2018年2ndアルバム「J Second」をリリース。2013年よりベーゼンドルファージャパンにてインペリアルレッスン講師、そして 2020年よりデュッセルドルフのPiano Academy Online講師として各国の生徒にレッスンを開始。 オフィシャルウェブサイト:www.junnaiwasaki.com オフィシャルブログ:s.ameblo.jp/junnaiwasaki/ オンラインレッスン:www.pianoacademy-online.com

「大きな目標よりも、自分のペースで積み重ねることが大切」

次に登場するのは、ヨーロッパに11年間留学し、国内外でリサイタルやオーケストラとの共演の傍ら、国際コンクール審査や昭和音楽大学でも指導をされているピアニストの上野優子さんです。2017年からは毎回ピアノメーカーを変えて取り組むリサイタル「プロコフィエフ・ソナタ全曲シリーズ」などで注目を浴びています。

上野優子さん
©Sho Yamada

ー上野さんはこれまで、楽器がつまらないと思ったり、練習に行き詰まってしまったりしたことはありますか?

上野:「楽器がつまらない」と感じたことは、これまでを思い返してみると一度もなかったように思います。練習についても「練習すれば上手になる。ピアノは自分を裏切らない」と思っていました。でも、コンクールの結果が芳しくなかったり、超天才の演奏を聴いたりしたときには、行き詰ってしまったこともありました。

ー「ピアノは自分を裏切らない」。とても力強い言葉です。でも、プロの演奏家の方でさえ、練習に悩みを感じることがあるのですね。そのときはどうやって乗り越えたのですか?

上野:美術館へ足を運んだり、本を読んだりして凝り固まった頭をほぐすようにしました。遊園地で絶叫系アトラクションに乗ったりして、気分転換を図ることもありました。また、自分が演奏したことのない楽器やオーケストラの演奏会を聴くことも、とても勉強になりました。

ー自分の演奏を多角的に捉えて気持ちを切り替えることが、次の練習へのやる気につながるのですね。「遊園地で絶叫系アトラクションに乗る」というのも、いやおうなく気持ちが切り替わります! そして演奏したことのない楽器の演奏を聴くのも大きなヒントになりますね。そして、日々の生活の中で楽器とうまく付き合っていくコツについてもアドバイスをお願いしたいです。

上野:最初から大きな目標を掲げるのではなく、まずは自分のペースでコツコツ積み重ねができるように、例えば「夕食後は練習」など、習慣づけると良いと思います。自分が取組む楽器とどんどん仲良くなりますし、そして続けていくことが大切だと感じます。

ー確かに、“時間があるときに練習しよう”と思っていても、なかなか楽器に触れられないものです。やはり短い時間でも毎日習慣にすることが大切なのですね。そうやって日頃から楽器と顔を合わせる回数が多くなれば、自分の楽器の良さにも気がついて、楽しく長く続けていくことができそうです。最後に、上野さんがこれまでにピアノの練習で「楽しい!」と実感できたエピソードを教えてください。

上野:中学生の頃は毎週、練習曲3曲を暗譜でレッスンに持って行くのが課題で、1冊終わると達成感がありました。現在はお客様に自分の演奏表現が伝わったり、奏法を工夫して新たな音色が出せるようになったりすると本当に嬉しく、さらに探求心が増します。毎日新しい何かを発見できるように、ぜひあなただけの「音」を探してみてくださいね。

ー「毎日新しい何かを発見できる」、それも楽器を練習する楽しみのひとつですね。探究心を持って楽器と向き合うことで、もっともっとすばらしい音楽の世界を知ることができるかもしれません!

上野優子さん
©Akira Muto

上野優子 プロフィール

桐朋女子高校音楽科を経てイモラ国際ピアノアカデミー(伊)ディプロマ取得、パリ・エコールノルマル音楽院コンサーティスト課程ディプロムを審査員満場一致で取得。浜松国際ピアノアカデミーコンクール、フンメル国際ピアノコンクール他入賞多数。日本フィルハーモニー交響楽団、スロヴァキアフィルハーモニー管弦楽団等多数のオーケストラと共演。スロヴァキアFM、NHK-FM等に出演。国内外での演奏活動のほかにコンクール審査や講座、音楽雑誌などの執筆、昭和音楽大学での指導など、その活動は多岐にわたる。これまでに3枚のCDを発売、「レコード芸術」誌準特選盤・準推薦盤に選出。’17年にスタートしたスタインウェイ・ファツィオリ・ヤマハ・カワイ・ベヒシュタイン・ベーゼンドルファーの順に使用楽器を変える「プロコフィエフ・ピアノソナタ全曲シリーズ」は、注目のツィクルスとして話題になっている。’18年ピティナ・ピアノコンペティション特別指導者賞を受賞。公式サイト:yuko-ueno.com Twitter:@yukoueno325

まとめ

以上3人の方にお話を伺う前は、「お稽古ごと」の代表のひとつであるピアノを極めた人なら、練習に悩みなどないのでは……と思っていました。でも今活躍中のピアニストの方々は、それぞれに練習の大変さを感じながら、音楽への深い思いとともにそれを乗り切っています。楽器の演奏には、練習が不可欠。でも、その先にある音楽の楽しさやすばらしさを知っていれば、ときには悩みながらも、目標に向かって進んでいけるのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

丹野由夏

丹野由夏

音楽ライター。管楽器を中心にインタビュー記事などを執筆。大人になってからフルートを習い始めた。今は休んでいるけれどまたいつか!と思っている。最近は急に東海道を歩いてみようと思いたち、とりあえず本だけ購入しました。