ジストニア発症からレフティへ決意の転身。細川大介 第2のギタリスト人生【前編】

数年ぶりにジャラーンと弾けて、心の底から感動した。

――転機は何だったのでしょうか?

細川:ずっとバンドを走らせ続けてきたところに突然コロナがやってきて、止められなかったものが強制的に止められてしまったじゃないですか。

――ライブもそうですよね。

細川:はい。自分はギターが一番得意で、それこそが僕が存在している理由だと思っていたけれど、そのギターを思うように弾けなくなってしまったということは世の中からもう必要とされていないんじゃないかと感じていたんです。そんな時にコロナという厄災が襲ってきて、ライブ活動が止まって、奇しくも病気のこともあるし、コロナによって人生を“どうするか考えようよ”と言われているような気がしたんです。

そこで出した結論は、1回ギターをやめて新たな人生を歩むことでした。なあなあで続けていくのは僕の性格的にもできないから、改めてメンバーに“辞めたい”とそのときに伝えました。

――メンバーはどんな反応だったんですか?

細川:それが一番困ったのですが、“それでも続けてほしい”と言われて。メンバーは、ジストニアのことも知っている。それでも“ギターは好きなときにだけ弾けばいい。立っているだけでもいいし踊っててもいい。でも大介と一緒にやっていたい。大介が辞めるならそこでLACCO TOWERは終わらせよう。”と。本当にありがたいし、優しいなとも思ったけれど、“バンドを続けられるのは嬉しいけど、ギターが弾けないのに、バンドを続けてるって、本当に俺はそんな人生でいいのかな、この先どうしよう”って余計に悩んじゃって。

そんなとき、アンドレス・ゴドイという右手がないチリのギタリストのライブ映像をたまたま見たんです。その人は事故で右手を失い、一度はギターを諦めたけれど、左手だけで演奏する道を選んでいて。その姿を初めて見たとき、あまりにも感動して、ただただすごいなと思ったんですよね。この人は右手がないのに、何で俺はピックが持てなくて弾けない、手首が自由に動かせないってだけで弾くのをやめると言っているんだろうって。だったら弾く手を逆にしてみたらどうだろう?と。

――まさに逆転の発想ですね。

細川:試しに逆に構えてみたんです。そしたらこれまで思い通りに動かなかった右手はストレスなく動くし、なによりも痛くない。“これはイケるんじゃないか?”と思って。まだコードのひとつも弾けはしないけれど(笑)。その気持ちのまま次の日に朝いちでレフティ用のギターを買いに行って、家に帰ってそれこそジストニアを発症してから数年ぶりにストレス無くジャラーンと弾けたときは、心の底から感動したというか、喉の渇きが潤うようなものすごい満足感が得られたんです。すぐにメンバーに“俺はレフティになる”と伝えました。“いや無理でしょ”と言うメンバーは1人もいなくて、“お前だったら絶対にやれる”と背中を押してくれました。

――当たり前にできていたことができなくなって、再びそれができたときの感動は想像以上だったと思います。

細川:指1本でしか弦を押さえていないんですけれど(笑)、とにかく面白くて始めたものが音楽だったので、久しぶりに当時の感覚を思い出しました。

――“絶対にできるよ”とメンバーが背中を押してくれたのも嬉しいですね。

細川:そのときに僕が話したのは、5年計画で考えていると。5年で、レフティだけでツアーを周れるようにしてみせると話をしたんです。ギターを始めて25年が経ったので、その5分の1の時間で今と同じことができるんだったら年齢的にもまだ大丈夫だという計算で始めたのですが、計画は想定よりも縮まっている感覚ですね(笑)。

――それだけ練習しているってことですよね?

細川:そうですね。今までは練習すればするほど下手になるのに、レフティにしてからは弾けば弾くほど上手くなるから、めちゃくちゃ面白いんですよ。“5年とは言ったけれどもっと早くやりたい”という欲で出てきて、メンバーに“練習時間が欲しいから、会社の雑務は任せたい。給料はなくていいから”と話しました。

僕、15〜6歳くらいからずっと働いているので、ギターだけを弾くような毎日を過ごしてみたいと思っていたんです。これを機にその夢を叶えたいという話をメンバーにして。もちろんバンド活動は、僕が先頭を切ってやっている部分もあるので今まで通りに全部やる。それ以外の会社の業務は任せたい。その代わりに、1年間はひたすらギターを練習して必ずLACCO TOWERをもうひとつ上に連れていくから、俺を信じてくれと。メンバーも“それがバンドのためにもなるから”とわかってくれました。

今は1時間練習したら必ず15分間は休む。時間を大きく使い、規則正しく練習

――コロナ禍では、ツアーやライブはなかったのですか?

細川:音楽業界の状況に合わせてリモートライブやツアーも少しずつ始まっていたんですけれど、そのときはすべて右手で弾いていました。しかし左手で練習するようになって、右手で弾くことのストレスも軽くなったんです。一番のストレスはやっぱり未来がまったく見えないことでしたから。色々な弾き方を試したけれど、それは決して良い弾き方でないことはわかっているし、“5年後、10年後の俺はどうなっているんだろう?”と考えるのがとてもつらかったんです。ギタリストとして世間に少しずつ認められるようになって、“すごいね、カッコ良いね”って言葉を掛けてもらえていたのが、症状が進むにつれて離れていく人も多かった。見返すだけの何かもできないし、それに対する努力もできない。でも左手で弾くことで、“俺はもう左手で弾くし!”みたいな前向きさがあったんです。

――気持ちがだいぶラクになったというか。

細川:相当ラクになりました。だから今は右手の練習はライブ直前しかしないし、それ以外は全部左手です。ギターを構えていないのはご飯のときくらい(笑)、その甲斐あって劇的に上達しました。

――すごいですね。まだ1年半しか経っていないのに。

細川:今年5月に“これはイケる”と思って、メンバーに“恵比寿LIQUIDROOMでのライブを告白の場に使わせてほしい”とお願いしました。ちょうど20周年だから区切りも良いし、バンドが21年目に向かう新たなスタートとしてお客さんにもわかりやすいかなと。僕もちょうど40歳だし、人生の区切りとして良いタイミングで。

――その期間、1日にどのくらい練習していたのですか?

細川:最低でも6時間は練習しようと。ただ前みたいに練習しすぎて病気になるのは嫌なので、今は1時間練習したら必ず15分間は休む。時間を大きく使い、規則正しく練習している感じです。

――どのような練習メニューですか?

細川:最初の3時間は、絶対にアコギの練習に費やそうと思っています。というのも、以前よりも丁寧に弾こうと思ったんです。若い子と違ってもう40歳なので、弾くスピードでは世界一になれないけれど、1音1音の説得力だったり、テクニックでは世界一になることができる。そういうときに、アコギが一番良い練習になると思いました。あとはリーディングと言って読譜練習もしています。

アコギの練習のあとはエレキギターに持ち換えて、コピーをしたり自分たちの曲を弾きます。曲を弾くと今の自分の弱点がわかるので。その日の練習メニューも全部手帳に書き込んで、どう練習してどういう体の変化が起きたのかも分析するようになりました。集中力にしても10代には絶対に勝てないこともわかっているので、なるべく長く弾いていられるように、年齢も含めて若い子とは違う練習の仕方をしないとダメだなと今は考えながら練習していますね。

――例えばバレーコードのような初心者の壁は、レフティの場合も同様ですか?

細川:同じというか、利き手じゃないので最初はもっと弾けなかった。力の使い方が違うので、ビックリするくらい弾けなかったんです。“こんなに弾けないんだ”ってちょっと笑いましたけれど(笑)。

――でも気持ち的には、つらいという感覚ではないんですね。

細川:そうですね。弾けないけれど、自分が思い描くように指は動かせるから。自分の体が思うように動いてくれるのは、こんなにも幸せなことなんだなと思いました。

――些細なことでもいいんですけれど、反対の手で弾くことによって新たな発見はありましたか?

細川:あります。僕はもうずっと長い間ギター講師をやっていたんですけれど、何でCコードから教えていたんだろうと(笑)。“これめちゃむずいんだけれど”みたいな。

――確かに(笑)。

細川:今だったら“こっちのコードのほうがいいよ”と思うし。最初にこのコードは難しかったなとか、コードをキレイに弾くのって1年くらいかかるよとか、そういう発見は新鮮な感覚でしたね。

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プロフィール

■LACCO TOWER
叙情的なリリック、パワフルなドラミング、空を切り裂く轟音ギター、縦横無尽にグルーヴするベース、幻想と狂奏が入り交じるピアノライン、どこか懐かしい印象のメロディがフロアを大きく揺り動かす。
叙情的な詩世界とは裏腹な激情その物のとんでもないライブパフォーマンスで全国各地で暴れ回る狂想演奏家。

2002年バンド結成。
2013年塩﨑が代表となり、メンバーで株式会社アイロックスを設立。
2014年より6年連続で自身主催ロックフェス「I ROCKS」を
地元・群馬音楽センターにて開催。
2015年6月に日本コロムビア/トライアドレーベルよりメジャーデビュー。
2016年と2017年には2度にわたりフジテレビ系TVアニメ「ドラゴンボール超」
のエンディング主題歌に抜擢。
2017年より5年連続で地元群馬のプロサッカーチーム、ザスパクサツ群馬の公式応援ソングを担当。
現在までにアルバムをインディーズにて4枚、メジャーにて最新作「青春」を含め6枚をリリース。
2022年バンド結成20周年を迎え、対バンツアー、20周年記念ワンマンツアーを経て、12月7日(水)にオールタイムベストアルバム(4枚組)「絶好(ぜっこう)」を発売。

■Official web site
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■Official funclub『猟虎塔』
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「練習がきつい!と感じたら」特集について

毎日コツコツと練習を重ねるのが、なんだかしんどくなるときってありますよね。そんなときは、克服した人の経験談やアドバイスから練習のヒントを受け取ってみては?プロの演奏家やミュージシャンも、意外と同じ壁にぶち当たっているかもしれませんよ。

この記事を書いた人

溝口 元海

エディター、ライター、フォトグラファー。