「ピアノ習って、よかった!」 ハラミちゃん×大内孝夫【前編】

まるでピアノと戯れているかのように流行りの曲や懐かしのメロディを次々と演奏する大人気ポップスピアニストのハラミちゃん。彼女のダイナミックで躍動感溢れる音楽は今、日本中の、いや海外の人までをも巻き込み子どもから大人まで魅了しています。

そんなハラミちゃんの原点である、ピアノとの向き合い方はどんなものだったのでしょうか?そちらを深堀りすべく、『「ピアノ習ってます」は武器になる』で話題の著者・大内孝夫さんを迎え、ハラミちゃんとのスペシャル対談が実現しました。大内さんは元銀行員という異色の経歴を持つ音大教授。どんな話が飛び出すか、とても楽しみですね!前編となる今回はハラミちゃんの経験から、「ピアノを習うことの良さ」をテーマにお話いただきました。

写真/大久保惠造

ハラミちゃんのピアノ経験は意外なところでも役立っていた!

大内

ハラミちゃんのご活躍は、YouTubeはもちろん、最近はテレビ番組やCMなどでもお見かけしない日はないほどです。まさに『「ピアノ習ってます」は武器になる』を体現されている方で、著者としては嬉しい限りです。そこでまずお聞きしたいのですが、「ピアノを習ってよかった!」と思うのはどういう瞬間ですか?

ハラミちゃん

それはもういつも(笑)。私は、ハラミ(お肉)を支えてくれる白ご飯にちなんで、応援してくださるみなさんを「お米さん」と呼ばせていただいているのですが、私のピアノでお米さんが笑顔になるのを見るたびに、「ピアノを習ってよかった!」って、いつも思います。

いつもより少し大人っぽいいでたちのハラミちゃん。この対談のために新たなお洋服をご用意くださったとのことです
大内

そっか! だからあんなに楽しそうに弾けるんですね。ボクは音大教授といっても座学の授業しかないから、校内でピアノを楽しそうに弾く音大生の姿はあまり見たことがありません。しかも試験前なんてみんな、必死の形相(笑)。音楽以外ではどうでしょう?

ハラミちゃん

記憶力ですね。自分でもびっくりするくらいいいんですよ。これって、きっとピアノのお陰。今でも強烈に覚えているんですけど、高校生のころ通っていた塾で、英単語記憶テストというのがあって、その場で見て記憶できた英単語の数を競いました。東大を受験するような子もたくさんいる50人くらいのクラスで1番でした。英語は中学からずっと苦手意識があって、もともと覚えている単語が少なかっただけに、自分でもビックリ!(笑)本当にピアノを習ってたおかげだと思います。

大内

お~すごいですね! ピアノ弾いている人って記憶力ももちろんですが、頭いいですよね。私の著書でも、ピアノと脳の関係についてのさまざまな研究結果を体系的にまとめて紹介しています。その中で、ピアノって右脳も左脳も使うので脳の全体運動になることを……

ハラミちゃん

それ! ご本に書いてありましたね。脳りょうが太くなるとかも……

大内

え、お読みいただいたのですか! ありがとうございます!!

ハラミちゃん

うなずけることばかりでした。勉強ができるとかできないではないのですが……私からすると、ピアノを習うと地頭というか基礎の脳みそが勝手に育ってるんだ! っていうのがビックリしました。

大内

そうそう、ボクもハラミちゃんの本『好きのパワーは無限大』、読ませていただきました。「音大生あるある」満載で、ハラミちゃんの奮闘ぶりはぜひ多くの音大生に読んでもらいたいと思いました。今は大人気のハラミちゃんも、決して最初から順風満帆ではなかったんですよね。音大卒業後、IT企業に就職され、そこで大活躍。でもがんばりすぎてしまって、心と体がエンストを起こして休職。そのときに会社の先輩に声をかけていただき、都庁でストリートピアノを演奏したのがハラミちゃん活動のきっかけになった……つまり今のハラミちゃんがあるのは、会社勤めをしたから、ということになります。会社にお勤めの中では、ピアノが役に立ったことなどはありますか?

ハラミちゃん

めちゃくちゃ役立ちましたね(笑)。ピアノっていうより音大ですけど、そもそも一般企業に音大卒の人ってなかなかいないじゃないですか。能力の前にまず目立つし、強烈なアイデンティティになる。

特に役立ったのは、「目標から逆算する力」。幼いころから続けていたピアノのレッスンのおかげで染み付いているんでしょうね。「次回のレッスンには絶対ここまで仕上げてきてね」と先生に言われたら、「曲を仕上げるためには1週間どういう動きをしなきゃいけないのか」ということを自分で組み立てるんです。ちなみに、100%のパフォーマンスでは怒る先生だったので、自分のなかでは120%に設定していました(笑)。それで、「じゃあ何曜日までに何パーセントだな」という具合に、どんな練習をしないといけないのかを箇条書きで紙に書き出していました。

この力ってまさに一般企業でも必要ですよね。例えば、売上を何パーセント伸ばしたい、という目標に対して、じゃあまず何をすべきか、そして課題は何か、それに対してどういう条件が揃えば叶うか、など。「ピアノ」の部分が「仕事」に置き換わっただけの感覚でした。逆算をしてものごとを進めることには慣れていたので、業務への理解も早まった気がします。

大内

おお~! まさにボクがこの本で書いたとおりだ!!!

ハラミちゃん

あとは、マルチタスク。これもピアノの演奏に通じる気がします。ピアノを弾くとき、脳内ではとんでもない量の処理を同時にしていますよね。次の音はどんな音か、腕の力の抜き方、音の強弱など、いろんなことを瞬時に判断しています。仕事でも、山ほどある「やらなければならないこと」に、体が自然と反応していましたね。「この、脳みそゴリゴリ使う感じがピアノと似てる〜」って思いながらやっていました(笑)。

『「ピアノ習ってます」は武器になる』(大内孝夫・著)より
大内

そう、ピアノ演奏こそ脳にとっては究極のマルチタスクなんですよ。そのことに気づいているハラミちゃんもさすがです! 余談ですが今、ピアノが受験に使える学校も増えてきています。英語や数学と同じように、自分の得意なものとして音楽を選択して試験を受けることができるんですよ。

ハラミちゃん

すごーい! そうやって自分をアピールする手段としてピアノが使えるのもいいことですね。

子どもにピアノを “習わせる” から “一緒に楽しむ” 発想へ

大内

今度はピアノを習うことそのものについて。ピアノを子どもに習わせたい、という親御さんは多いと思います。ハラミちゃんのご家庭ではいかがでしたか?

ハラミちゃん

ハラミ家では「習いなさい!」って強制するよりは、シェアする感じでしたね。親が好きな音楽、例えばカーペンターズやクイーン、スピッツなど、正直私の世代じゃないような音楽もあったけど(笑)、とにかくたくさんシェアしてくれていたんです。時には一緒にコンサートにも行ったり。こんな風に親が「音楽が好き」という思いで接してくれると、子ども(私)も「好きという感情が第一でいいんだ」という安心感がすごくありました。

大内

ご両親は何か音楽をされていたのですか?

ハラミちゃん

いや、それが親は全くやっていなくて、ピアノも弾けないんです。でも、「あの人のピアノ素敵だよね」とか、「こういうピアノの番組やってたから録画しといたよ」など、音楽の話題でよくコミュニケーションをとっていましたね。

大内

ボクはもう、親子で一緒になってピアノを習うのもありだと思って、いろんなところでおすすめしまくっています。

ハラミちゃん

あ、それいい〜! 似たようなことがあって、母が私にピアノで「メリーさんの羊」を弾こうとしてみせるんですよ。すると当たり前なのですが、全然弾けないから「ハラミちゃん、教えて~」って言われて、私が得意気になっちゃうっていうパターン(笑)。どうしても親には年齢的にも経験的にも教えられることが多いので、逆に自分がピアノを教えてあげられるのが嬉しかったです。母も楽しそうにしてくれていたし…。一緒に参加する空気を作るのがすごく上手でしたね。そのおかげで、楽しく音楽をすることができました。

大内

うまいですねぇ。それ、お子さんにピアノを習わせている親御さんはマネしたほうがいい(笑)。子どもにとっても「やりなさい!」と言われるだけでは、やる気スイッチは入りません。

ハラミちゃん

そうなんですよ! 「いや、じゃあママやってみてよ」ってなっちゃう(笑)。「なんでそんな風に言われなきゃいけないの?」とか「私の苦しみなんか分かりっこない!」ってなりがちだと思います。

大内

確かに、ハラミちゃんの場合、音楽的な訓練は厳しいものもあったでしょうから、それを強要されてしまったら辛いですよね。

ハラミちゃん

そうそう。だから世の中のお父さんお母さんたちも、「お子さんと一緒にやる」という感覚持っていただけたらいいんじゃないかと思います。私は会社員時代は仕事に集中していたので、練習はほとんどできなかったのですが、家で母親がご飯の支度をするときのBGMとしてたまにピアノを弾いていました。「なんか聞きたい曲ある〜?」っていう感じで。

大内

素晴らしい! 大きくなっても、親御さんとのコミュニケーションツールになっているところが素敵ですね。

ハラミちゃん

そういうことって、社会に出てもありますよね。会社員になっても音楽好きな人同士でバンドを組むおやじバンドとか。ピアノが弾けることでコミュニティが広がるきっかけになっていくと思います。

ピアノを習うのはプロになるためじゃない!

大内

お話を聞いて改めて、ピアノを習うのはいいことだな、とつくづく思います。私は習ったことがなくて、中学2年生のときにあることがきっかけで家にあった妹のピアノを弾き始めました。もっと早くから、きちんと習っていればよかったと、後悔するばかりです。

ハラミちゃん

でもそこから始めて続いている……私はいつからでも始められるのも、ピアノのいいところだと思うんですよ。ピアノって、プロになるために習うものじゃないと思います。ただ、小さいころにピアノを習っていて意外と陥りやすいのが、「何のためにピアノ習っているんだろう?」と考えてしまうこと。モーツァルトのように天才的な音楽の才能がある子なんてめったにいませんから!(笑)。別に音大に行かないし、才能ないし……と考えはじめちゃったらもうね、辛くなっちゃう。

大内

それじゃあモチベーションも上がらないですもんね。

ハラミちゃん

そうなんですよ。だからだんだん年齢が上がって部活や受験が忙しくなってきたタイミングでやめてしまう子って、多いじゃないですか。でもそんな子どもたちにとって、“発表の場”があるのというはとても大事だと思っています。

大内

なるほど。それはどんな風に作ればよいのでしょうか?

対談のあと、大内さんのリクエストに応え、初めてストリートピアノで弾いた「前前前世」などを演奏してくれたハラミちゃん
ハラミちゃん

まさに今、ひとつの文化になりつつあると思うんですが、ストリートピアノが“発表の場”に適してるのではないでしょうか。もちろん、教室の発表会でもいいのですが、発表会というと1年に1回あるいは2年に1回など、頻度が多くないんですよ。また、きっちりしすぎているところもあるかな、と。大きなホールで、みんなに見つめられながら演奏するのは緊張しちゃうし、仮にそこで失敗しようものなら、その失敗がトラウマになって、むしろ逆効果な場合もあります。

それに対してストリートピアノは誰のために弾くわけでもなく、街に置いてあるだけなので、ポロっと音を出してみるだけでもいいのです。それでいて人前で演奏している感覚もあるので、気軽に試せる“発表の場”になるんじゃないかなぁ。例えば、「次の土曜日にストリートピアノで弾いてみようか」と言って、そのためにちょっと練習するとか、それを動画で撮ってもいいですし、お父さんやお母さんに聴いてもらうのもアリ!

大内

ストリートピアノはハラミちゃんにとっての原点でもありますよね! ボクは街にピアノを設置したいとの相談を受けることもあります。管理など大変な面もあるのですが、音楽の溢れる街というのは素晴らしいと思います。今度相談にのってあげてください(笑)。

ハラミちゃん

ストリートピアノのように、これまではなかった発表の場が広まりつつあるのはすごくいいことで、自分にあったスタンスで楽しくピアノを習ってほしいなぁ。

この対談の続きは・・・

ピアノを楽しみながらも、さらにレッスンで出される課題を通じて自然と社会でも役立つ問題解決能力を磨いてきたハラミちゃん。後編では、そんなハラミちゃんの子ども時代の経験を語ってもらい、改めてピアノを弾くことの良さについて紐解いていきます!

ハラミちゃん プロフィール

「ピアノを身近な存在にする」を目標に掲げ、YouTubeを中心に活動しているポップスピアニスト。活動開始から約2年半でYouTube登録者数184万人、総再生回数4.1億回(2021年10月現在)を突破。ストリートピアノの他にも数々のアーティストとのコラボなども実施、来年1月4日には初の日本武道館単独公演の開催が決定している。
オフィシャルサイト:harami-piano.com
YouTube : www.youtube.com/channel/UCr4fZBNv69P-09f98l7CshA
Twitter:twitter.com/harami_piano


大内孝夫(おおうち・たかお) プロフィール

1960年生まれ。みずほ銀行にて本部次長、支店長などを歴任後、武蔵野音楽大学を経て2020 年より名古屋芸術大学芸術学部音楽領域教授。日本証券アナリスト協会検定会員、ドラッカー 学会会員、全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)キャリア支援室長/組織運営委員/ピアノ指導者経営相談窓口担当。これまでにない視点に立った進路・キャリア関連著書が音楽教育界で 大きな話題を呼ぶ。著書に、下記書籍や、本邦初! 大人のための音楽教室ガイド『そうだ! 音楽教室に行こう』、『大学就職課発!! 目からウロコの就活術』(音楽之友社)、『「音大卒」は武器になる』(ヤマハミュージックメディ ア)など多数。

問題解決能力を養うのに、ピアノはとても良い!

『「ピアノ習ってます」は武器になる 』
著:大内孝夫
■定価:1,540円 (税込)
出版社:音楽之友社
詳細はこちら:https://gakufubin.shimamura.co.jp/ec/pro/disp/2/mtg0110495
《本書について》
ピアノを習わないと大損!!―――幼児期からピアノや音楽を習うと「音感・リズム感がつく」、「感性を育む」、そして「脳にいい」という効果はよく知られていますが、じつは、それだけではありません。AIネイティブの子どもたちに、“生きる力”を授ける最強の習い事ともいえる「ピアノ」を習うメリットを、改めて各方面に取材・調査。豊富なデータをもとに検証し、教室の探し方、習い方のコツなどとともに紹介しています。

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この記事を書いた人

KANA

クラシック音楽を中心に、Webメディアでアーティストのインタビューなどを多数行う音大卒のフリーライター。「世の中にクラシック音楽との接点を増やす」を目標に活動中。