島村楽器 Update!をご覧の皆様、こんにちは。
アコースティックギターバイヤーの古川(ふるかわ)です。
今回ご紹介するのは、富山県で製作を行うルシアー、藤井圭介氏が手掛ける「FUJII GUITARS」のSJモデルです。
藤井氏は、伝統的なアコースティックギターの製作技術を基礎に、素材の組み合わせや設計、細部の意匠に独自の感性を反映させています。寄木によるロゼッタや、マグネットを用いたトラスロッドカバー、3D CADを用いた設計・CNCの活用など、製作に取り入れている手法もさまざまです。
今回ご紹介するSJ-CW CS/MRは、カルパチアン・スプルースとマダガスカル・ローズウッドを組み合わせたボディに、寄木ロゼッタやフローレンタイン・カッタウェイを採用したモデルです。
試奏して印象に残ったのは、木が本来持つ響きを自然に感じさせる音色と、各部に選ばれた木材が織りなす表情でした。藤井氏の考え方と、このギターの魅力をお伝えします。
ルシアー 藤井圭介 プロフィール

1980年、神奈川県生まれ、東京都育ち。
2001年に富山県へ移住し、杉田健司氏のもとで製作修業を重ね、2012年に独立して工房を設立。
伝統的な製作技術を基礎に、設計や意匠に独自の発想を取り入れているのがFUJII GUITARSの特徴です。
3D CADを用いた設計・CNCの活用や和材を取り入れたギター製作など、さまざまな手法を取り入れながら、富山県の工房で製作を続けています。
FUJII GUITARS 「SJ-CW CS/MR」の紹介


SJ-CW CS/MRは、スモールジャンボ系のボディシェイプにフローレンタイン・カッタウェイを組み合わせたモデルです。
表板にはカルパチアン・スプルース、側・裏板にはマダガスカル・ローズウッドを採用。ナット幅は44.5ミリ、スケールは643ミリです。
仕様
| 項目 | 仕様内容 |
|---|---|
| モデル | SJ-CW CS/MR |
| 表板(トップ) | カルパチアン・スプルース |
| 側・裏板(サイド&バック) | マダガスカル・ローズウッド |
| ネック | ホンジュラス・マホガニー1ピース |
| 指板 | エボニー |
| フレット | Jescar |
| ブリッジ | エボニー |
| カッタウェイ | フローレンタイン・カッタウェイ |
| ナット/サドル | 牛骨 |
| ヘッドプレート(表) | ジリコテ |
| ヘッドプレート(裏) | インドローズ |
| 指板インレイ | なし |
| ロゼッタ | 寄木(アンボイナ・バール、栃、メイプル、サティーネ、エボニー、突板) |
| バインディング | マッカーサーエボニー |
| パーフリング | 突板の組み合わせ |
| ペグ | Gotoh SGL510Z Cosmo Black |
| ペグボタン | L5ボタン |
| ナット幅 | 44.5ミリ |
| スケール | 643ミリ |
| ピックガード | なし |
| 弦 | Martin MA540T phosphor bronze light |
| 弦高 | 6弦側 約2.2mm/1弦側 約1.8mm |
| ネックリリーフ | StewMac製ゲージで2~3目盛りほどの順反り |
| フィニッシュ | シェラック・フレンチポリッシュ |
| ケース | Boblenハードケース |
ボディ
SJシェイプに、フローレンタイン・カッタウェイを組み合わせています。先端に角のあるカッタウェイが、ボディの輪郭に印象的なアクセントを加えています。
藤井氏によると、音の輪郭をよりくっきりと引き締めるため、ボディのくびれからロアーバウトにかけてのラインを若干絞り、ボディ厚も薄くしたとのこと。ボディの造形にも、目指す音色に向けた工夫が反映されています。
表板(トップ材)



表板にはカルパチアン・スプルースを採用しています。
カルパチアン・スプルースは、剛性を保ちながら比較的軽く、剛性と重量のバランスに優れた材とされています。白く均一な色合いや、やや幅のある木目も特徴です。
ピックガードを設けていないため、表板の木目や色合いを広く楽しめます。
側板・裏板(サイド・バック材)



側板と裏板には、マダガスカル・ローズウッドを使用しています。
色の濃淡や表情豊かな木目が、カルパチアン・スプルースの表板とのコントラストを生み、ボディ全体に落ち着いた印象を与えています。自然素材ならではの木目の違いも、この材を眺める楽しみのひとつです。
ヘッドプレート(表面)



ヘッドプレートにはジリコテを使用しています。木目や色合いがヘッド周りの印象を形づくる、意匠上のポイントです。トラスロッドカバーにはマグネット式を採用。
ギターを構えたときに目に入りやすい部分だからこそ、ジリコテの表情とカバーを含めたヘッド全体のデザインにも注目したい仕様です。
ヘッドプレート(裏面)



ヘッドプレートの裏面にはインドローズを使用しています。ペグにはGotoh製「SGL510Z Cosmo Black」を採用し、ペグボタンはL5タイプです。コスモブラックの落ち着いた質感が、ヘッド周りを引き締めています。
ロゼッタ



ロゼッタには、複数の木材を組み合わせた寄木仕様を採用しています。アンボイナ・バール、栃、メイプル、サティーネ、エボニーなどに突板を組み合わせて模様を構成しています。
使用する木材の色や木目の組み合わせによって、寄木ならではの表情が生まれます。
自然素材の個体差と、幾何学的なデザインを組み合わせることで、一般的な単一素材のロゼッタとは異なる印象に仕上がります。
ネック



ネックにはホンジュラス・マホガニー1ピースを採用しています。
ネックは弦の張力を受け止める構造部材であると同時に、演奏者の手が直接触れる部分でもあります。そのため、材の選定だけでなく、ネックシェイプや厚み、仕上げの精度も演奏感に関わります。
ナットには牛骨を採用しています。ナット幅は44.5ミリ、スケールは643ミリです。実際に試奏する際は、ローコードからハイポジションまで、手のひらへの収まりや押弦時の感触を確認していただきたいと思います。
弦にはMartin MA540T phosphor bronze lightを使用しています。弦高は6弦側が約2.2mm、1弦側が約1.8mmです。ネックリリーフは、StewMac製のネックリリーフゲージで2~3目盛りほどの順反りに設定されています。
指板



指板にはエボニーを使用し、フレットにはJescarを採用しています。ポジションインレイを設けず、エボニーの表情を生かしたすっきりとした外観です。
ブリッジ



ブリッジにはエボニーを使用し、サドルには牛骨を採用しています。ブリッジは美しい湾曲を生かした、手の込んだ仕上げが目を引きます。素材だけでなく、細部の造形にも藤井氏の仕事ぶりが感じられる部分です。
バインディング・パーフリング



バインディングにはマッカーサーエボニーを採用しています。パーフリングは、複数の突板を組み合わせた仕様です。ボディ外周や各部の装飾に用いられた素材の組み合わせも、本モデルの細部を彩っています。
ボディ外周のバインディングは、楽器の輪郭を整えるだけでなく、トップとサイドの境界を印象づける意匠上の要素でもあります。
カッタウェイ



カッタウェイには、フローレンタイン・カッタウェイを採用しています。
先端に角のある特徴的な形状で、SJボディのラインに明確なアクセントを加えています。
ハイポジションへのアクセスに配慮しながら、ボディ全体のデザインにも関わる仕様です。フローレンタイン・カッタウェイの形状は、藤井氏が手掛けるギターの個性を感じられる部分のひとつです。
塗装

塗装はシェラック・フレンチポリッシュです。
藤井氏によると、ポリ塗装やラッカー塗装に比べてデリケートなため、試奏時などに肌が長時間触れることや、汗には注意が必要とのこと。
過度な耐久性・鏡面仕上げよりも、音の響きと自然な光沢・質感を大切にした仕上げです。
ラベル

ラベルには、2026年製、シリアルNo. 2026185と記載されています。
ハードケース

ケースにはBoblenハードケースが付属します。
バイヤー古川の注目ポイント

このSJモデルを弾いて、私がまず惹かれたのは、木が本来持つ響きを自然に感じられる音色です。
音の輪郭はきちんとありながら、硬くカンカンと鳴るのではなく、優しく奥行きがあります。甘さを含んだ余韻も心地よく、弾いているうちに、もう少しこの音を聴いていたいと思わせてくれるギターです。
藤井氏は、ギター作りで心がけていることを「素材の音をしっかり感じられる楽器にしたい」と話しています。
このモデルでは、カルパチアン・スプルースの太さと粘り、マダガスカル・ローズウッドの深みのある響きを組み合わせ、低い弦高でも音の芯を保てるように音作りをしたそうです。
さらに、音の輪郭をよりくっきりと引き締めるため、ボディのくびれからロアーバウトにかけてのラインを若干絞り、ボディ厚も薄くしたとのこと。試奏して感じた音色の印象と、藤井氏が話す設計の意図がつながり、このギターの音作りをより興味深く感じました。
外観では、寄木ロゼッタに使われた木材の組み合わせに目が留まります。アンボイナ・バールや栃、メイプル、サティーネ、エボニーなど、色や木目の異なる材が一つの模様を形づくっています。
表面にジリコテ、裏面にインドローズを使ったヘッドプレートや、マッカーサーエボニーのバインディングにも、素材を選び組み合わせる楽しさが感じられます。
シェラック・フレンチポリッシュの自然な光沢や質感、フローレンタイン・カッタウェイの印象的な輪郭も、このギターの個性を引き立てています。
音を聴き、細部を眺めるほどに、素材の持ち味を大切にする藤井氏の考えが伝わってくる1本です。
展示店舗・ECページのご案内
今回ご紹介したFUJII GUITARS「SJ-CW CS/MR」は、名古屋パルコ店に展示されています。
商品画像や掲載されている仕様、販売状況などの詳細は、島村楽器オンラインストアの商品ページをご確認ください。
※展示状況や在庫状況は変動する場合がありますので、ご来店前に店舗へご確認ください。
| モデル | 展示店舗 | 電話番号 |
|---|---|---|
| SJ-CW CS/MR | 名古屋パルコ店 | 052-264-8316 |
商品ページ

まとめ

藤井氏のギターに触れると、完成した一本の魅力だけでなく、そこに至るまでの歩みにも思いを巡らせたくなります。
高校卒業後にギター製作を学び、富山へ移住して杉田健司氏のもとでアコースティックギター製作を学んだ後、独立。さらにアメリカの製作家Stephen Marchione(スティーヴン・マルキオーネ)氏のもとでも製作を学んでいます。
そうした経験を土台に、伝統的な製作技術を大切にしながら、3D CADを用いた設計や和材の活用など、新しい手法も取り入れてきた藤井氏。今回のSJモデルにも、その歩みが感じられます。
木材の響きを生かす音作りと、寄木ロゼッタをはじめとする細部の意匠。確かな技術と自由な発想が、ひとつの楽器の中で自然に結びついています。
私がこのギターに惹かれたのは、優しく奥行きのある響きだけでなく、その音を生み出すための工夫や、作り手の考え方まで伝わってくるところです。
藤井氏が歩んできた道のりに思いを重ねながら、ぜひこの一本の音と表情を味わってみてください。
オーダーのご相談・入荷予定のお問い合わせ
FUJII GUITARSのオーダーに関するご相談や、入荷予定についてのお問い合わせは、島村楽器 名古屋パルコ店までご連絡ください。担当の古川がご案内いたします。
| 店舗 | 電話番号 | 担当 |
|---|---|---|
| 名古屋パルコ店 | 052-264-8316 | 古川 |
銘器探訪の管理人 古川 惠亮プロフィール

京都府出身。大阪での歌い手としての活動を経て、「音楽の楽しさを届ける側になりたい」との思いから、2004年に島村楽器へ入社。
ギターへの深い愛情と幅広い知識を武器に、アコースティックギターの販売で10年連続トップセールスを達成。
現在はバイヤーとして、米国のMartin社での買い付けをはじめ、Furch、K.Yairi、Takamineなどのブランド、ならびに国内外のルシアーと共に、数々のカスタムモデルの企画・仕様策定・デザインを手がける。
プライベートでは3児の父として、家族との時間を大切にしている。
目下の悩みは、子どもとのゲーム対戦でなかなか勝てないこと。