【サックスを巡る冒険ブログ #2】Balanced Action(バランスドアクション)は何が革新的だったのか

岩田屋福岡店

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2022年08月19日

CONTENTS◆前回のブログはこちら◆Balanced Actionって何が凄かったの?◆一番は小指のメカニズム◆Selmerは特許で「守った」→一人勝ちへ◆Selmerの「小指」のメカニズム実演◆各メーカーの拡販戦略への影響◆まとめ◆あなたの好きなサックスを探そう◆Balanced Action […]

◆前回のブログはこちら

◆Balanced Actionって何が凄かったの?

こんにちは、岩田屋福岡店WEB担当の大島です。
前回はヴィンテージサックスの個性の由来について、管楽器技術者・森さんから話を聞きました。

森
岩田屋福岡店・管楽器技術者の森さん

その中で、Selmer(セルマー)「Balanced Action(バランスドアクション)」というモデルが一世を風靡したことは、サックスの歴史のターニングポイントでした。

ではBalanced Actionは、どういう点が他のサックスより優れていたのでしょうか?

今回は、Balanced Actionがサックスの歴史に与えた影響についてです。

◆一番は小指のメカニズム

大島:Balanced Actionが発売されたのが1936年でしたよね。

森:はい。1930年代から1940年代はアメリカンサックスの黄金時代。そんな中、フランスのメーカーSelmerが満を持して発売したのがBalanced Actionです。

大島:Balanced Actionはどの辺が凄かったんですか?

森:一番は、左手小指のキイメカニズムですね。G#、LowB、LowB#、LowC#と四つあるとこ。凄く押しやすくなりました。

バランスドアクション切り抜き
左手小指のキイがポイント

大島:そうなんですね。でも、そんなに便利なら他のメーカーも同じようにしたんじゃないですか?

◆Selmerは特許で「守った」→一人勝ちへ

森:いえ、Selmerはこの機構の特許を取った後、他のメーカーにはそれを使わせませんでした。

Selmerは特許料で儲けようという訳じゃなく、特許で守って、一人勝ちしようって戦略だったんですよ

大島:それがサックスという楽器の命運を分けたと……

森:他のメーカーも色々頑張ってはいたんですよ。Selmerの小指とは違うやり方でもうちょっと押さえやすいやつをって。

たとえばCONNの出した「Connqueror」(CONNとConqueror:征服者の語呂合わせ)という上位モデルも、小指は凄く押さえやすいんですよ。

でも、パーツの数もBalanced Actionと比べて多く、メカニズムも複雑なので、生産コストも高かったでしょうし、狂いが生じたときに調整するのも大変だったと思います。

大島:確かに、複雑だと壊れやすそうです。

森:それらも結局、Selmerに代わる主流にはなり得ませんでした。シンプルにして押さえやすいのには、勝てなかったんですね。

そして、Balanced Actionの特許が切れる1970年代までの間に、それにとって代わるメカニズムは他のメーカーからは生まれなかった。

大島:Selmerの狙い通りになったんですね。

◆Selmerの「小指」のメカニズム実演

こちらの動画の2:06秒からメカニズムの解説
バランスドアクションキイ比較

右側が従来の形のキイ。左側がバランスドアクションで導入されたキイ。
蓋が閉まる向きが逆向きになっている。
バランスドアクションキイ比較
バランスドアクションキイ比較

◆各メーカーの拡販戦略への影響

森:また、Balanced Actionはその後の各メーカーの方向性にも影響を与えます。

その頃のアメリカはいわゆるバンドミュージックが盛んになってきて、スクールバンドや地域の教会のコミュニティバンドが盛り上がっていました。

すると、サックスメーカーもそういうところを顧客にして、安い楽器をいっぱい売った方がいいという方針になっていきます。プロ向けの楽器はSelmerに勝てないから、ということで。

大島:住み分けをするようになった。苦肉の策ですね。

森:ですが、Selmerの特許がいざ切れたとき、出てきたのがYAMAHAなどの安くて品質のいいサックス。

大島:ここでYAMAHAが出てくると……

森:これまでのメーカーは、アマチュアバンド向け楽器の市場でも競争が激しくなった。

そうして、あれだけ強力だったアメリカンサックスが、1970年代頃にはほとんど無くなってしまった訳ですね。

◆まとめ

Q.Balanced Actionはどういう点が革新的だったのか?

A.シンプルで操作しやすいメカニズムで、他のサックスを圧倒した。
またSelmerはその機構を特許で守り、他のメーカーに使わせないようにすることで、市場において一人勝ちをする戦略を取った。

◆あなたの好きなサックスを探そう

森:それでもSelmerじゃない、昔のサックスの音色や吹き心地が好きっていう人は居て。操作性よりもそちらを重視する奏者もいらっしゃる訳です。

大島:そういう楽器と出会えるのが、ヴィンテージサックス選びの醍醐味なんですね!

◆Balanced Actionについてはこちらもご覧ください!

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