【サックスを巡る冒険ブログ #1】ヴィンテージサックスが個性豊かな理由

岩田屋福岡店

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2022年08月04日

CONTENTSなぜヴィンテージサックスは個性豊かなの?理由①より音域を広く、より吹きやすく進化した結果理由②各メーカーの特許争いの副産物サックスの個性の収束と、ヴィンテージ市場の発生まとめまだまだ続く……?当店管楽器ラインナップなぜヴィンテージサックスは個性豊かなの? こんにちは、岩田屋福岡店WE […]

なぜヴィンテージサックスは個性豊かなの?

こんにちは、岩田屋福岡店WEB担当の大島です。
HPに載せる楽器の写真を撮ることも、WEB担当の仕事です。
そんなとき、ふと気付いたんですが……

ヴィンテージサックスって、色々形が違わない?

穴の位置が違ったり、キィの数が多かったり少なかったり。
微妙な個性があることに気付いたのです。

でも、どうして?

早速、私はリペア室のドアを叩きました。

「森さん! すみません!」

森さん
管楽器修理中の森さん

そして管楽器技術者・森さんに、サックスについて聞くことにしたのです。

理由①より音域を広く、より吹きやすく進化した結果

大島:なんでヴィンテージサックスの形は色々あるんですか?

森:それはですね、サクソフォンが発展していった過程と関係してるんですよ。

大島:過程?

森:ちなみに、サックスを最初に作った人は誰だか知ってますか?

大島:聞いたことあります!アドルフ・サックスさんです。

森:そうです。「サクソフォン」はサックスさんが「発明」して、特許を出願した楽器なんです。

そして、その特許が1866年に満了すると、多くの楽器メーカーがサックス製造を始めるようになりました。

現在もあるメーカーで最も古くからサックスを作っているのはBuffetCrampon(ビュッフェクランポン)ですが、今日はそのBuffetCramponが19世紀に製作したアルトサックスを持ってきました。

大島:あるんですか!?

森:あるんです。……これ(楽器を見せる)ちっちゃいでしょう。

サックスを持つ森さん
19世紀のアルトサックス

大島:可愛いですね。

現行のモデルと19世紀のサックス
上:現行モデル(BuffetCramponのsenzo)
下:19世紀のアルトサックス
比べると小さい
19世紀のサックスの刻印
刻印

森:ちっちゃいから、音域も狭く、最低音がシまでしかない。
それがより広い音域をカバーする為に、だんだんキイが増えていったと。
あとオクターブレバーも二つありますね。

19世紀サックスのオクターブレバー
オクターブレバー

現代の楽器は二つのオクターブキイが自動的に切り替わりますが、当時は音域により押し替える必要があったんです。

大島:やりたいことが増えるとキイの機構が複雑化していく感じですか?

森:キイも増えるし、あとはですね。この当時は特許合戦なんですよ。

大島:特許合戦?

理由②各メーカーの特許争いの副産物

森:楽器をサックスさんの特許の通りに作ると、特許料が発生してサックスさんにお金を払わないといけなくなりますよね。

大島:そうですね。

森:だから他のメーカーはサックスさんの特許に無い機構を開発して、それで特許を取った。

それにサックスさんが最初に申請した特許の形が大雑把だったことを利用して、その穴を突くように特許を取って、サックスさん側にも特許料を払わせようとしました。

そういう特許争いが沢山起こったんです。
サックスさんも特許の内容をより詳しく直したりして対抗しましたが、度重なる訴訟の費用のために、生涯に二回も破産しています。

大島:サックスさん気の毒ですね……

森:当初のサックスさんが考えた楽器に無かったメカニズムを、色んなメーカーが考えて特許を出願する。

そうしてサックスが複雑化していくのが最初の特許満了から二十世紀初頭ぐらいまで。
だから1910年代20年代の楽器って、実は複雑怪奇なんですよ。

大島:昔の楽器はシンプルなイメージがあるんですが、そうでもないんですね。

森:そうですね。1920年代はサックスの機構がかなり複雑化、多様化した時期です。
それから1930年代にかけて、サックスの機構はだんだんシンプルになっていきます。

大島:試行錯誤した結果が、ヴィンテージサックスの個性になっているんですね。

サックスの個性の収束と、ヴィンテージ市場の発生

森:そうして様々な個性的なサックスが生まれるのですが……1936年に革新的なモデルが登場します。

H.Selmer(セルマー)Balanced Action(バランスドアクション)。このモデルに搭載されたメカニズムはシンプルながらも洗練されていて、他社を圧倒しました。

そして1970年代にSelmer社の特許が切れてからは、他のメーカーも次々にセルマータイプの楽器を作るようになったのです。

大島:なるほど、それはそれで寂しい気もします。

森:だから今、ヴィンテージサックスっていう市場があるっていうのは、そういうことだと思うんですよ。

昔の楽器の個性的な音が好きだったり、当時のミュージシャンが使っていたのと同じモデルが欲しかったりする。

大島:そういう需要があるんですね!

まとめ

Q.ヴィンテージサックスに様々な形のものがある理由は?

A.サックスは誕生からより演奏しやすいように進化していった。
また各メーカーの特許合戦が起こった結果、多くの個性的なサックスが生まれた。

まだまだ続く……?

大島:ありがとうございました!また色々教えてください!

森:リペアが本業なんだけどな……

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