第4回 受け継ぐべきものは、技術だけではない──江崎秀行が貫くギター製作哲学
ヤマハでの製作経験を経て、江崎秀行氏がたどり着いた結論。
それは、「良いギターは、図面だけでは作れない」ということでした。
「究極の音を目指そうと思ったら、目に見えるものより目に見えないものの方が大切なんです。」
寸法や構造、木材の種類。それらはもちろん重要です。
しかし、それだけでは本当に良い音にはならない──。
長年ギターを作り続ける中で、江崎氏はそう実感するようになりました。
「結局は、精神面なんですよ。」
ギター製作に対する取り組む姿勢。一本一本に向き合う集中力。
そして、「良いギターを作りたい」という考え方や思い。
そうした数字では表せないものが、芸術的な音となって現れるのだといいます。
この考え方は、スペイン製作留学での経験から生まれたものでもありました。
1972年から約3年間、グラナダ、そしてマドリードで過ごした日々。
エルナンデスの工房は、100年以上前からほとんど変わらない伝統的なギター製作でした。
「工房には、ほとんど機械がありませんでした。」
唯一あったのは、ヘッドの先端を加工するための足踏み式の糸のこ盤だけ。
あとは、鉋やのみ、やすりなど、すべて手作業です。
「手に豆をつくり、100年や150年前とほとんど変わらない作り方でした。」
効率だけを考えれば、現代にはもっと便利な方法があります。
しかし、その伝統工法の中には、長い年月をかけて培われた職人の知恵と経験が詰まっていました。

ヤマハを定年退職後、浜松市内に「江崎ギター工房」を設立し「江崎ギター」の製作を始めました。
「私は、そのスペイン伝統の製作方法を受け継いでいきたいんです。」
だからこそ現在も、スペイン式構造やセラック塗装にこだわり続けています。
時間も手間もかかる工程ですが、それもスペインで学んだものづくりの一部だからです。
もう一つ、江崎氏が大切にしているのが、「スペインの音」です。
「アンダルシアの乾いた空気やスペイン人の明るい気質の音を表現したい。」
その言葉が印象的でした。
華やかで温かみがあり、それでいてどこか乾いた透明感を感じる音色。
さらに、低音・中音・高音が自然につながる、バランスの良い響き。
「どこか一つだけが目立つ楽器にはしたくないんです。」
独立後、楽器店へギターを持ち込んだ際には、「もっと高音が出た方が売りやすい」と言われたこともあったそうです。
店頭では、高音がよく響くギターは第一印象が良く、お客様にも分かりやすい。
しかし、江崎氏が目指したのは、それとは少し違う音でした。
「演奏していくと、しっかりしたベースの音の上にメロディーが動く。低音も中音も
高音と同じように大切なんです。」
メロディーが低音へ移っても、音楽全体のバランスが崩れない。
そんなギターこそが、本当に長く弾き続けられる一本だと考えています。
そして、この「目に見えないものを大切にする」という考え方は、お客様との向き合い方にもつながっています。
「できるだけ、お客様とは直接お会いしたいんです。」
その方はどんな音楽が好きなのか。どんな音色が好きなのか。その方はどんな弾き方をするのか。
そうした会話を重ねることで、自然と「この人のための一本を作ろう」という気持ちになるといいます。
お会いしたことのないのお客様には、写真を送ってもらうこともあるそうです。
「顔が分かるだけでも製作に向かう姿勢が違うんですよ。」
江崎氏が語る「精神面」とは、こうした作り手の思いまで含めたものなのかもしれません。
(最終回へ続く)
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記事担当:山崎(やまざき)

学生時代からギターを演奏しています。クラシックギターの魅力をお伝えできるよう、日々取り組んでいます。皆さまに音楽をより楽しんでいただけるようサポートいたします。