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こんにちは!
ギタセレ中の人です。
世界的な物価高騰や為替の影響により、ギターの価格は上昇の一途を辿っています。
「予算を考えると、これから手に入れられるギターはあと1、2本かもしれない……」
そんなプレッシャーから、憧れの一歩を踏み出せずにいませんか?
今回は「一生モノの一本」を真剣に探している皆さまへ向けた記事です。
島村楽器のギター修理&製作に関する凄腕の持ち主「ルシアー駒木」が、技術者の目線から「後悔しないギターの選び方」を語ります。
「楽器店のスタッフさんにどんなことを訊けばいいんだろう?」という方もいらっしゃるのではないかと思います。
ルシアー駒木の考える「お店のスタッフにはこんな質問をすればギターの特性がわかりやすいです!」という内容もご紹介いたします。
楽器製作のプロが脱帽する「一生モノ」の海外ギターブランド2選

――駒木さんが人生で初めて購入されたギターはどんなモデルでしたか?

最初に触ったのは、兄が持っていたシャーベル(Charvel)のゲイリー・ムーアモデルです。
これは単純に憧れでしたね。
その後、中学3年生の時に初めて自分で買ったのが、アイバニーズ(Ibanez)のRGシリーズです。
価格は3万6000円くらいでした。
当時は知識もないのにパーツをいじくり回して、めちゃくちゃにしてしまいました(笑)。
しかし「自分で分解して、弄って、音が変わる楽しさを知る」という原体験が、今の技術者としてのルーツになっています。


――ギターをゼロから設計できるようになって、市販のギターの見え方は変わりましたか?

圧倒的に変わりました。
素晴らしいギターに出会って感動することはたくさんあります。
しかし、それが自分の「買いたい」という物欲には直結しないんです。
頭のどこかで「これなら自分で作ればいいか」と思ってしまうからです(笑)。
そんな私が、仕事の枠を超えてお客様に心からお勧めしているのが、「Jimmy Wallace(ジミー・ウォレス)」と「Don Grosh(ドン・グロッシュ)」です。
本気で「これは自分には作れない。逆立ちしてもかなわない」とリスペクトしています。


――トップクラスの技術者がそこまで脱帽する理由を教えてください。

日本の職人が作るギターはどれも優等生です。
外見の美しさや寸法の正確さは非の打ち所がありません。
平面を出すのが最も難しいとされる「黒の鏡面仕上げ」などを見ると、その高い技術力に感動します。
編註:「黒の鏡面仕上げ」はグランドピアノなどによく採用されています。
しかし楽器には、正確さではない「理屈抜きでグッと心惹かれる何か」が存在します。
ジミー・ウォレスのギターは、日本の厳しい技術基準で見たら仕上げが荒い部分もあります。
私のほうが綺麗なギターを簡単に作れるほどです(笑)。
それでも「ジミーのギターじゃないと絶対に出ない音」が確実にそこにあります。
ジミーはプレイヤーなので「経験と感覚」でギターを作っています。
対するドン・グロッシュは、狙った響きを実現するために木材を「0.25ポンド(約113g)単位」でロジカルに管理しています。
感覚派の究極がジミーで、技術派の究極がグロッシュ。
アプローチは真逆ですが、どちらもギタリストとしての引き出しを最大限に広げてくれる、一生モノのゴールに辿り着いています。
――ジミーさんとの出会いと関係を教えてください。

ギターを買い付けるためにアメリカ最大規模のトレードショウであるDallasGuitarShowへ出張しました。
ギターの修理歴などを確認するために私はその場で工具を使ってギターを細かくチェックしていました。
それを見た周囲の人たちから「あいつは何をしているんだ」と怪しまれ、会場でちょっとした噂になっていました(苦笑)。
それを見たギターショーの主催者であるジミー本人が私の行為の真意(=修理技術に基づいた確かな目利き)を理解し「お前はギターをわかっている」と認めてくれて、周囲の人たちに対して私を擁護してくれたことが出会いのきっかけとなります。
この出会いを経て、半年後に再会した際にはより深い交流が始まりました。
現在ではジミーが私のことを「日本の友人」としてアーティストに紹介してくれたり、プライベートな食事やライブに誘ってくれたりするほどの深い信頼関係を築いています。
今ではジミーが「日本人にはAtsushiにしか売らない」と言ってくれるほど、特別なパイプで楽器の買い付けができるようになっています。

――ドンさんはいかがでしょうか?

私にとって80~90年代が最も沢山音楽を聴いた「音楽黄金期」でした。
その頃に私のアイドルだったのは、スティーブ・ルカサーやラリー・カールトン、ジェイ・グレイドンやリー・リトナーといった、ウェストコーストロック黄金期・LAミュージックシーンを牽引した、伝説的なギタリスト達でした。
そして、彼らは皆Valley Artsのギターを弾いていました。
Valley Artsはロサンゼルスのサンフェルナンド・バレーにあったMike McGuire氏とAl Carness氏によるリペアショップが発祥のブランドで、パーツを厳選して組み上げるハイエンドなコンポーネント・ギターの代表格。
当時、Valley Artsを持っていること自体が一流セッションマンの証でもありました。
更に、彼ら本人が使用する個体は全てValley Artsで1980年代半ばから1990年代初頭にかけてショップ・フォアマン / チーフ・ルシアーだった職人が作っているという事を知った訳です。
それがMr.Don Groshでした。
要するに、私の「憧れの人」ですね。
まさか自分が勤める会社が、憧れの人のブランドと代理店契約を結んで、私が国内の入荷検品をすることになるなんて思いもしませんでしたよ(笑)。
初めて彼を訪ねてデンバーに行った時には、聞きたいことだらけで、特にValley Arts時代の事で質問攻めにしてしまいました(笑)。
いやな顔一つせず全部丁寧に話してくれましたよ。
本当に優しいんですよね。
私の手作り楽器を(元)CHICAGOのBill Champlinが弾いてくれているのですが、そのことを「凄いね!」と言って下さったのは一生の思い出になりました。
憧れの人に褒めてもらったわけですから。

失敗しないギターの選び方|好みの音を「倍音構成」と「重量バランス」で解き明かす
――自分好みの音を確実に見つけるための、技術者ならではの視点はありますか?

音のキャラクターは「倍音(ばいおん)の構成比」で論理的に説明がつきます。
ギターの音は、波形に含まれる「偶数倍音」と「奇数倍音」のどちらが優位に出ているかで大きく変わるんです。
これを好みの音楽ジャンルと照らし合わせることで、合理的に「外さないギター選び」ができます。
① ロック・メタル:歪みと音の明瞭さを重視するなら「偶数倍音」
歪ませた音でもアンサンブルの中で音が潰れず、パワフルに輪郭を出したい場合が該当します。
この場合は、4倍音や2倍音などの「偶数倍音」がしっかり出る楽器を選ぶのがよいと思います。
特徴は、全体に適度な重量があり、ネックや木材に硬さがあるギターです。
最近のジェント系プレイヤーがヘッドレスギターを好むのも同じ理由です。
ヘッドがないことで余計な高次倍音が出ず、倍音の干渉が起きません。
そのため、ダウンチューニングの低い音でも、音の輪郭をはっきりと掴みやすくなります。



② ジャズ・歌モノ:暖かさとふくよかな響きを重視するなら「奇数倍音」
暖かく柔らかく響かせたいジャズや、ボーカルのバックで鳴らしたい場合が該当します。
この場合は、3倍音や5倍音といった「奇数倍音」が複雑に響く楽器が向いています。
ボディもパーツも軽量で、木製のブリッジや、オープンバックの軽量なペグを搭載した構成が特徴です。
木材や全体のパーツが程よく柔らかく揺れることで、非常に豊かでふくよかな響きが生まれます。



| 求めるサウンド・ジャンル | 向いている倍音 | 楽器の構成・特徴 |
|---|---|---|
| ロック・メタル(歪み・明瞭さ) | 偶数倍音(2倍音、4倍音など) | 重量がある・木材が硬い・パーツが重い・ヘッドレスなど |
| ジャズ・歌モノ(暖かさ・ふくよかさ) | 奇数倍音(3倍音、5倍音など) | 軽量・木材が柔らかい・パーツが軽い・箱モノなど |
――1本でマルチにこなしたいオールラウンダーはどう選べば良いですか?


すべてのバランスが良く、最初から豊富な倍音が含まれているギターが理想です。
先述のジミー・ウォレスがまさにこれに当たります。
情報量が多いため、手元のボリュームやトーン調整だけで、その都度出したい音を気持ちよく引き出すことができます。
「ない音を出す」のは無理ですが「ある音を抑える」のは簡単です。
これが万能なギターの条件です。

グロッシュさんが所属していたValley Artsのギターを使用していたスティーブ・ルカサー。
ルカサーのシグネイチャー・モデルである「ERNiE BALL MUSIC MAN LUKE1」がコンセプトが近いモデルと言えるのではないでしょうか。

YAMAHA Pacificaシリーズは日本人が弾いて「弾きやすい・気持ちが良い」に着地するように、ボディサイズや重さ・ネックグリップなど練られています。
またサウンドもどのような音作りをしても間違いのないバランスの良い本体になっています。
そしてその後購入する楽器がどの方向に行くにしても基準になるような楽器になっています。
楽器店で試せる! 自分の好みの倍音バランスを見極める比較テクニック
――お店で自分の好みの倍音やバランスを見極めるコツはありますか?

楽器選びには絶対的な数値が存在しません。
すべては「対比」で判断します。
人間の耳は単体で音を聞いても判断が難しいため、お店での比べ方が最も重要になります。
気になるギターを見つけたら、あえてそれとは極端にタイプの違うギターを1本持ってきて鳴らし比べてみてください。
「重いギターと軽いギター」「フルアコとヘッドレス」といった具合です。
極端な物差しを横に置くことで、最初に選んだギターの個性が驚くほど明確に聞こえるようになります。
また、店頭で簡単にできる面白い実験があります。
「めちゃくちゃ重たいカポタストをヘッドにくっつけて鳴らしてみる」方法です。
ルシアー駒木流・ヘッドの鳴りチェック法
ヘッドの揺れは、ナットを通じて弦の振動に大きく影響します。
重いカポをヘッドにつけて鳴らした音と、外して鳴らした音のどちらが心地よく感じるか試してください。
カポをつけた(ヘッドの鳴りを止めた)タイトな音が好きなら、あなたは「偶数倍音寄り」のギターが好みだと分かります。


G7th Performance 3 ARTは約63g。
検証に適しています。
もし基準となる物差しが欲しいなら、ヒストリー(HISTORY)を弾いてみるのもおすすめです。
日本の技術が詰まった優等生なギターなので、自分の好みが「固い木材か柔らかい木材か、重いバランスか軽いバランスか」を計る最高の物差しになります。
失敗を防ぐ店員への正しい問い合わせ方
――お店のスタッフにどんな相談をすべきですか?

私なら、まず載っているパーツから重量を推測し、ボディやネックの重量との比率がどのようになるかを相談します。
多くの方は「楽器全体の重量が3.5kg」という情報だけでギターの特徴を判断しがちです。
しかし「ボディ材は軽いが、鉄の塊のような重いブリッジが載っているから全体としては重い」というケースもあります。
例えばIbanez。
頑丈で重いオリジナルブリッジを載せることで、サスティンを稼ぎ、偶数倍音を出す設計にしているモデルが多いです。
ボディ材という個体差が出やすい要素で重さの設計をするのではなく、ボディは各パーツを乗せる土台の役目と割り切ってパーツの重量とネックで鳴り方を設計している訳です。
また、私は木材の「ヤング率(弾力性・変形抵抗)」を意識します。
「ヤング率」は「固さ」とは違います。
「固さ」という言葉は例えばぶつけて傷がつきやすいかどうか、のような意味が入ってきますが「ヤング率」は変形のしにくさ(しなやかさ・剛性) のようなイメージです。
例えば「メイプル5ピースネック」は、木目を逆向きにしたり異材を入れて貼り合わせることで、メイプルの間に挟む材の種類や接着剤の効果も相まってヤング率が上がります。
これにより、タイトな偶数倍音が増す設計になります。
「ボディ材の特性」と「載っているパーツの重量バランス(重い・軽い)」という裏側の設計を聞けば、試奏しなくてもその楽器がどちらの方向を向いているのかが手に取るように分かります。
――ネットで試奏動画を依頼する場合、どのようなオーダーをすれば音の本質が見抜けますか?

可能であれば「自分が今持っているギターと同じフレーズを、同じアンプ設定で弾き比べてもらう」のが一番です。
動画単体だとアンプのセッティングで音が変わってしまうからです。
フレーズの指定としては、以下の2つをお願いすると楽器の素性がハッキリ分かります。
- クリーンサウンドで、5〜7フレットあたりの和音(コード)を鳴らす
和音の響きが美しくクリアに分離して聞こえるか(偶数倍音の強さ)を確認できます。 - アンプを深く歪ませて、低音弦の低いフレットで刻むリフを弾く
ミュートで刻んだ時に、音がぼやけずに輪郭がピシッと聞こえるギターほど、偶数倍音がしっかり出ている証拠です。
この低音リフの「分離感」が最高の指標になります。

上記の内容は店頭にてギターを選ぶときにも当てはまると思います。
実際に試奏してポイントを確認できればより安心ですよね。
スペックに縛られないギター選び|最終的に大切なのは直感とルックス

――最後に、一生モノの購入に悩む方へメッセージをお願いします。

色々とお話ししましたが……実は私、お客様とこういう話を散々した最後に、いつもこう言うんです。
「まあ、でも最終的には見た目と色で選んじゃっていいんじゃないですか!」(笑)。
技術者なのにそんなこと言うの!?と驚かれますが、本音です。
ギターにおいて後から変えられないのは、木材の持つ根本的な重量や硬さのバランスだけです。
ピックアップやブリッジ、ペグなどは後からいくらでも交換できます。
パーツ交換による音の変化は非常に大きいため、後からいくらでも理想の音にコントロールできます。
だからこそ、スペックの数字やネットの評判に縛られすぎず、まずは色や形といった直感を大切にしてください。
色もご依頼いただければ変えられるんですけどね…!
好みのルックスで、自分の好きな音の方向性にあった「木」のベースさえ見つかれば、あとの細かなパーツ調整は島村楽器のリペアマンがいくらでもお手伝いします。
失敗を恐れて一歩を踏み出さないのはもったいないです。
ぜひショップの店員や私たちを頼りにして、あなたにとって最高の「一生の友」を見つけてください!
まとめ
かつて私が店長をしていたとき「絶対に音が良くなるギター調整会」というイベントを開催しました。

お一人様30分枠。
休憩も挟みつつ8名のお客様にご参加いただき、各々お持ちになったギターを駒木が目の前で調整します。
詳細はルシアー駒木のギターよもやま話 その83「音が『良くなる』って!?」をご覧くださいませ。
調整前と後のギターのサウンドの違いは歴然で、お客様たちは皆大感動。
自身の枠が終わっても、他の方の調整とそれを体験して感動する様子を見たくてそのまま居残り。
最後のお客様の調整時には全員が集合していました。
8名であげる「おぉ〜〜〜!!!」の感嘆の声は今でもよく覚えています。
※下記の駒木著の本はそのイベントの内容が明文化されていると思います。
そんな「ギターの魔術師(私は勝手にそう思っています)」が提案するギターの選び方。
参考になった方が多いのではないでしょうか。
少なくとも私は大変ためになりましたし、本の内容の補完となりました。
今回の記事を通じて、ご覧いただけた皆様の「一生モノの1本」に出会うためのヒントになれば最高です。
さぁ、一歩を踏み出しましょう!
今回お話を伺った人

ルシアー駒木プロフィール
テクニカルチーフとして島村楽器のギターリペア工房に勤務。
アーティスト用・雑誌掲載用などオーダーメイドでの楽器製作を行なってきたキャリアを活かし、お客様の楽器の修理・改造業務を主としながら、海外への買い付け業務や楽器開発協力、世界各国の工場で技術指導も行う。
その実力はアメリカやスウェーデンをはじめとした海外のアーティストから、スペインの伝統的なギター製作現場まで高い信頼を得るほど。
修理・改造業務の他、エレクトリックギターやベース、アコースティックギターの入門書やメンテナンスDVDへの解説出演、ラジオ「SAME’SBAR」への出演など、広い活動の場を持つ。

ルシアー駒木が語った「倍音構成」についてもっと詳しく知りたい方はこちら
各倍音の特徴がよく出ている曲リストは必聴です。