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第3回 スペインで学んだものをヤマハへ──職人が教えてくれた「音づくり」の本質
当時、「エルナンデス イ アグアード」のギターは、ジョン・ウィリアムスをはじめ世界的な演奏家たちが愛用する憧れの存在でした。
木工をマヌエル・エルナンデス、塗装をビクトリアーノ・アグアードが担当していました。江崎氏が滞在した頃、アグアードは目と足の持病ですでに現場を離れていて、エルナンデスが塗装も行っていました。
マドリードで何度も工房へ足を運び続けた末、江崎秀行氏は、世界的巨匠 エルナンデスから工房で学ぶ承諾を得ます。
「ようやく受け入れてもらえました。その日に工房に道具を運び込みました。」
しかし、工房へ入ったからといって、彼にも自分の製作の仕事がありすぐに技術を教えてもらえるわけではありません。
「工房には木工機械は何もなく100年前の製作方法で、各工程を見て覚える世界でした。」
師匠が製作したギターを採寸し、工程を観察する。
細かな説明はありませんが、時おり掛けられる短い助言が、江崎氏にとって何よりも貴重な学びだったといいます。
日曜日になるとアグアードをエルナンデスと老人ホームまで迎えに行き、三人で昼食を囲むことが恒例になっていました。
「食事をしながら、アグアードから塗装のことなどをいろいろ教えていただきました。」
工房だけでは学べないことが、エルナンデスとの休憩中の何気ない会話の中に詰まっていたのです。
「急ぐな、急ぐと良い仕事が出来ない。金儲けは考えるな。気に入ったギターをつくるには200年生きなければならないなど彼の体験からでた一言一言の意味を深く考えるとたいへん重い言葉でした。」
留学中にエルナンデス本人をヤマハへ紹介し、約1か月にわたる製作指導も実現しました。
「フェレールとエルナンデスからスペイン伝統の製作方法やギター製作の神髄を多く学びました。」

約3年間のスペイン修業を終え、江崎氏はヤマハのギター部門へ復帰します。
本来であれば設計部門へ戻る予定でしたが、江崎氏はスペインで学んだ技術を現場で生かしたいので、特別に製作現場へ入ることを申請しました。
若い職人を二人付けてもらい、技術を伝えながら高級クラシックギターを製作していきます。
この頃に誕生したのが、ヤマハカスタムモデルGC30A・B・Cでした。
江崎氏は、エルナンデスの製作思想を取り入れたモデルGC30Bの製作を担当することになります。
スペインで学んだ技術は、少しずつヤマハの高級クラシックギター全体へと受け継がれていきます。
「同じ図面で作っても、音は同じにならないんです。」
ヤマハでは、一度、三人の職人が同じ設計図・似ている材料で、それぞれ一本ずつギターを製作したことがありました。
当然、ほぼ同じ音になると考えていました。
しかし、完成した三本を弾き比べると、音は驚くほど違っていたのです。
「まるで別のモデルのようでした。」
違うのは、製作者だけ。
その経験は江崎氏に大きな衝撃を与えました。
そこで、一人で一本を作るのではなく、一つのギターを複数の職人で工程ごとに分担する方法へ変更します。
すると品質は大きく安定しました。
それでも江崎氏は、こう語ります。
「結局、一番音に影響するのは製作者なんです。」
図面には表れない、製作者の性格、製作技術、知識や体験、ギターに対する考え方など製作者の個性が一本一本の音色を決めていくのです。
この経験は、後に独立してからの江崎氏のギター製作にも、大きな影響を与えることになります。
「技術だけではなく、製作者の考え方や姿勢まで音に表れる。まさに芸術です。」
そう考えるようになった原点が、ヤマハでのものづくりにありました。
(第4回へ続く)
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記事担当:山崎(やまざき)

学生時代からギターを演奏しています。クラシックギターの魅力をお伝えできるよう、日々取り組んでいます。皆さまに音楽をより楽しんでいただけるようサポートいたします。