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【Tecnical】スタインウェイコンサートグランドD-274 オーバーホールの記録

Vol.1整備内容|Vol.2外装全塗装終了、内装修理|Vol.3ハンマー交換、ダンパー交換|Vol.4整音完成

Vol.1 整備内容

スタインウェイコンサートピアノD-274 オーバーホールを行ないました

ピアノセレクションセンターでは、2010年5月から7月までの2ヶ月間、スタインウェイのコンサートグランドピアノD-274』のオーバーホールを行ないました。
スタインウェイのD-274は、クラシック、ジャズ、ポピュラー、ジャンルを問わず幅広い表現が可能で、世界中で行なわれているコンサートの実に98%で使用されているピアノです。

D-274D-274

このD274は2010年9月、ご売約、ご納入済みとなりました。ありがとうございました。
ピアノセレクションセンターの技術者による2ヶ月間のオーバーホールの記録をVol.1からVol.4に分けてご紹介します。

D-274のご紹介

モデル名 外装仕上 製造番号 製造年 白鍵 黒鍵
D-274 黒半艶仕上 387○○○ 1964年(ハンブルク) 一枚象牙 黒檀
オーバーホールとは?

オーバーホールとは、使用されて古くなった弦やハンマーなどの消耗パーツを交換したり、外装のキズを補修して全体を塗りなおしたりして、全体的に大掛かりな修理を施すことを言います。
オーバーホールは、コンサートピアノに限らず、お客様のご自宅のピアノにも行なうことができます(工房にお預かりしての作業になります)。
アップライトでもグランドでも可能です。
お持ちのピアノが古くなってきて、

  • 調律してもすぐに音がくるってしまう
  • 音に伸びがなくなって弾いていて楽しくない
  • 鍵盤がガタガタして弾きにくい

こういったことでお困りの方はお気軽にお問合せください。技術者がお伺いして、ピアノの状態を確認し、ご希望に合わせたオーバーホールのメニューのご提案と金額のお見積りをさせていただきます。

象牙鍵盤
象牙鍵盤です。汚れが目立たず、独特の質感が残っているので交換はせず、クリーニングのみします。
サウンドベルのボルト
サウンドベルのボルトの締め加減を測定しています。

D-274の修理内容
外装及びフレーム 全体的なキズ補修、黒艶消しでの全塗装、本体側面へのロゴ入れ
脱弦(弦を全て外すこと)、フレーム上げ、フレーム塗装、フレームセッティング
内装系 チューニングピン交換、弦張替え
鍵盤ブッシングクロス貼替え、バックレールクロス貼替え、バックチェック交換
アクション内のフェルト・クロス張替え、ダンパーフェルト貼替え
ハンマーアッセンブリー全交換、アクション整調、整音

このピアノは、黒半艶仕上げで全塗装、本体側面にスタインウェイのロゴを入れます。
そして、フレームも本体から外してきれいに塗りなおして、再び本体にセッティングします。

脱弦完了キズ補修中

その後、数人で手分けをして内装関係の修理を行ないました。
2010年7月中には全ての工程が完了する予定で進めていきました。

Vol.1整備内容|Vol.2外装全塗装終了、内装修理|Vol.3ハンマー交換、ダンパー交換|Vol.4整音完成

Vol.2 外装全塗装終了、内装修理

D-274の全塗装修理完成

組み立て組み立て組み立て組み立て

D-274の外装とフレームの全塗装が無事完成です。
本体側面にスタインウェイのロゴも入り、新品同様に美しくよみがえりました。

スタインウェイロゴスタインウェイロゴ

フレームに書かれている文字やロゴはハンブルク工場と同様に、手書きで仕上げました。
この手書きが非常に難しい作業で、2日間かかりました。
ハンブルク工場には文字入れ専任の技術者がいるほどです。
手書きで美しく仕上げてくれたYさん、ありがとうございます。

スタインウェイロゴ
スタインウェイロゴ

内装修理も進んでいます

弦張替えや、鍵盤、アクション内部のフェルトなどの交換作業も順調に進んでいきました。

鍵盤修理
修理内容 バックチェック交換
フロントブッシングクロス交換、バランスブッシングクロス交換
ダンパーレバーキークロス貼り換え、バックレールクロス交換
バランスキーピンとフロントキーピン磨き、キャプスタンボタン磨き

バックチェック
交換前のバックチェック
バックチェック
交換後の新しいバックチェック
ハンマーを正確に受け止め、確実な連続打鍵が可能になります。
スタインウェイ社純正パーツを使用。
ブッシングクロス貼り替えブッシングクロス貼り替え
新しいきれいなブッシングクロスに貼り替えました。
鍵盤を弾いたときのガタがなくなり、なめらかなタッチになります。
スタインウェイ社純正パーツを使用。
ダンパーレバーキークロス貼り換えダンパーレバーキークロス貼り換え
ダンパーレバーキークロスも新しく交換しました。音を止めるダンパーと直結する部分なので、新しく硬いクロスに交換することで、タッチによる音色変化のコントロールがやりやすくなります。
スタインウェイ社純正パーツを使用。

アクション修理
修理内容 サポートヒールクロス交換、ハンマーレストフェルト交換
レギュレチングフェルト交換、ジャック&レペティションボタンパンチングフェルト交換
ハンマーレールテープ交換

アクションブラケットレペティションレバー画像
レペティションレバーは、鍵盤の動き(打鍵の力)をハンマーに伝える重要な部分です。
使用と経年変化により圧縮変化したフェルトとクロス(左の画像、○で囲んだ部分)を新しくすることで、正確なタッチが実現できます。
サポートヒールクロス、ハンマーレストフェルト、レギュレチングフェルト、ハンマーレールテープはスタインウェイ社純正パーツを、ジャックボタン&レペティションボタンパンチングフェルトは国産パーツを使用。

ダンパー修理
修理内容 ダンパーフェルト交換、ダンパーライニングフェルト交換

ダンパーフェルト交換ダンパーフェルト交換
ダンパーフェルトは、音を止めるだけでなく、ペダル操作で音色変化のコントロールもできる繊細なパーツです。
新しいフェルトに換えることにより、繊細な音色変化が可能になります。
ダンパーフェルトはスタインウェイ社純正パーツを、ライニングフェルトは国産パーツを使用。

弦張替え
修理内容 チューニングピン全交換、全弦張り替え、止音フェルト貼り替え

弦張り替え弦張り替え弦張り替え止音フェルト
新しい弦に替えると、艶と輝きのある音が甦ります。
チューニングピンとベース弦、止音フェルトはスタインウェイ社純正パーツを、中高音部の芯線はレスローワイヤーを使用。

内装修理は予定通り順調に進んでいます。
この後はダンパー取り付けを、そしていよいよハンマー交換をして整音に入ります。

Vol.3では、ハンマー交換の様子をご紹介いたします。

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Vol.3 ハンマー交換、ダンパー交換

ハンマー交換

スタインウェイ純正ハンマーを使用しました

スタインウェイハンブルク純正ハンマースタインウェイハンブルク純正ハンマー
これからアクションに取り付けるハンマーです。
今回のオーバーホールでは、ほとんどのパーツに純正パーツを使用します。
ハンマーももちろん、ハンブルクスタインウェイの純正ハンマーです(レンナー社製)。

ハンマー間隔合わせ

間隔合わせ間隔合わせ
アクションブラケットにハンマーを取り付けた段階で、スタインウェイ専用の『フレンジスペーサー』という工具を使い、ハンマーの間隔を等間隔に揃えます。

ハンマー傾き修正

画像画像
間隔をそろえるのと同時に、ハンマーの『傾き』も修正して、弦に平行に当たるようにします。
ハンマーシャンクをアルコールランプで温め、左手で傾きを修正します。

ハンマー走り修正、鍵盤調整

ハンマー走り修正鍵盤調整
高音部と最高音部のハンマー全てが、静止位置から垂直に上がるようにします。
同時に、ブッシングクロスを貼り替えた鍵盤の上下の動きをスムーズにする鍵盤調整も行います。

以上の工程はいずれも、打鍵のエネルギー(鍵盤を弾いた力)をできる限りそこなわずにハンマーに伝え、良い音に反映させるための重要な作業です。

弦合わせ

弦合わせ 弦合わせ

ピアノの中音部高音部では、1本のハンマーが弦3本を打ちます。
スタインウェイの弦合わせは、シフトペダルを踏み込んだときに左側の弦1本が完全に開放されるように、少し高音側に寄せて合わせます。このように合わせることで、開放されたときに左側の弦が共鳴弦の役割をして、多彩な音色コントロールが可能になります。
左の画像が通常時、右の画像がシフトペダル使用時。

ダンパー取り付け、ダンパー総上げ

ダンパー取り付けダンパー取り付け

フェルトを新しく貼り換えたダンパーを本体に取り付けます。垂直・水平に上下できるようにダンパーワイヤーを慎重に曲げて取り付けます。
その後の調整が『ダンパー総上げ』です。ダンパーペダルを踏み込んだときに、全てのダンパーが同時に上がるように微調整します。
ダンパー総上げがきっちり揃っていると、止音だけでなく、ハーフペダルやクォーターペダルなど、微妙なペダリングでの音色変化のコントロールができるようになります。

現在、D-274のオーバーホールはハンマー交換とハンマー成型(ファイリング)が終わり、ハンマーフェルトを固めて音に輝きを与える『硬化剤』を塗って、いよいよ最終の整音に入ります。
Vol.4では、整音の様子をお届けいたします。

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Vol.4 整音完成

整音の完成です

ピアノの整音

『ピアノの整音』と聞いて、なにをイメージしますか?
おそらく、ピッカーという道具を使ってハンマーに針を刺していく姿を思い浮かべるのではないでしょうか。
整音

整音で最も重要なこと

コンサートピアノに限らず整音をするときには、針を刺していく前に『ピアノとコミュニケーションをとる』ことから始めます。
半音階、白鍵だけ、黒鍵だけで全音域の音を聴く。曲を弾いて全体の響きを聴く。
こうして注意深くピアノと向き合っていると、『こんな響きにして欲しい』という『ピアノの声(要望)』が聴こえてきます。
さらにピアノがお客様所有のものであるときは、お客様ご本人と充分にコミュニケーションをとり、『お客様の声(要望)』を聴きます。
こうして、『どのような音創りにしていくのか』を最初に決めることが、整音をする上で最も重要なことなのです。

D-274
今回整音をするスタインウェイD-274は島村楽器の商品、つまり、まだ所有者の決まっていないピアノです。
商品の整音をするときには、スタインウェイらしさが感じられる響き=『スタインウェイ・スタンダード』の響きに仕上げます。

スタインウェイ・スタンダード

『スタインウェイらしさが感じられる響き』というと一般的に、

  • ブリリアントな響き
  • パワフルな響き
  • 高音がキラキラしている

などと言われることが多いようです。
ところが、整音をする技術者はこういった漠然としたイメージを持つだけでは、いい音を創り出すことができません。
技術者が創る『スタインウェイ・スタンダード』とは、『強弱による音色変化が明確な響き』です。
スタインウェイ・スタンダード
上図のグラフの縦軸が音色(音質)、横軸が強弱です。
そして、斜め一直線の赤線がスタインウェイの音です。
ピアニッシモで弾いたときはメロウな柔らかい音色に、メゾフォルテで弾いたときにはブライトな(明るい)音色に、さらにフォルテッシモで弾いたときにはベリーブライトな(より明るい)音色に段階的に変化していきます。
比較のためのグラフ中の2本の曲線はそれぞれがスタインウェイ以外のヨーロッパのメーカーの音の特徴を表しています。
上の緑の曲線は、ハンマートップ(打弦点)が硬く仕上げられているため立ち上がりが鋭く、明るい音が特徴のピアノです。
下の青の曲線は、ハンマートップが柔らかく仕上げられているため、繊細なピアニッシモが特徴のピアノの音です。

このように、明確な完成形をイメージして、ハンマーの状態を確認しながら慎重に整音を進めていきます。

ハンマー成形から始めました

今回取り寄せたハンマーは、フェルト全体が非常に柔らかかったため、ハンマー成形(ファイリング)をして、硬化剤という薬品を塗ってフェルトを固めて音を創っていく方法を選びました。

ファイリング

スタインウェイのハンマーの形は、『ダイヤモンド型』と呼ばれ、他のメーカーに比べて少し角ばった形に成形します。
ファイリング前のハンマー ファイリング後のハンマー
左の画像がファイリング(成形)前のハンマー、右の画像がファイリング後のハンマーです。
ファイリングには、4種類の布やすりを使用します。
形を作る第一段階では、80番のやすりを使用します。その後、180番→240番→600番と次第にやすりの番手を細かくして、表面を滑らかに仕上げていきます。
ファイリングファイリング

硬化剤

ファイリングが終了し、ハンマーの形が整ったあとに、フェルトの繊維を固める硬化剤を塗ります。
硬化剤 硬化剤
ハンマーの手前側と奥側と交互に硬化剤を滲み込ませていきます。
ハンマーフェルトの下部から徐々にハンマートップ(打弦点)へ向けて数回に分けて滲み込ませます。ハンマートップから硬化剤を流し込むのではなく、下から少しずつ、時間をかけてハンマーフェルト全体に滲み込ませます。
少々時間がかかりますが、こうすることで、ハンマーフェルトの『コア』と呼ばれる最も硬い部分が作られ、音に輝きが生まれます。

ヴォイシング

硬化剤が十分に乾燥したら、ハンマーフェルトに針を刺して音質を整えていきます。
今回の整音では、柔らかいフェルトを硬化剤で固めていったので、派手なヴォイシング(針刺し)はせず、ハンマートップ(打弦点)付近に浅く針を刺して、強弱によって段階的に音色が変化するように音を整えていきます。
ヴォイシング

スタインウェイD274オーバーホールの完成です

約2ヶ月間のD274オーバーホールが遂に完成しました(2010年7月)。
ピアノセレクションセンターの技術者が愛情を込めて整備した、このD274。ご来店、ご試弾いただいたお客様にとって『特別な1台』となっていただけるよう、引き続き調整・調律を繰り返し、最高の状態に仕上げました。
D274完成 D274完成


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