バイオリン名曲紹介vol.2

こんにちは！
バイオリンインストラクターの西尾(にしお)です。

気温が大分おちつき、急な変化でペグが緩む方も多い時期ですね。皆様の楽器の調子はいかがでしょうか？

「名曲紹介」では、「多分有名なはず」「バイオリンを演奏するならこれは知っておいてほしい！」という曲を、独断と偏見と経験と知識による解説を交えつつご紹介してまいります。

愛の悲しみ/F.クライスラー

vol.2では、自作自演をしたバイオリニストの中でも個人的にオシャレだと思う作曲家、F.クライスラーの『愛の悲しみ』をご紹介します。

この動画を撮影するにあたって、1年ぶりくらいにクライスラーの演奏を聴きましたが、本当にいい演奏ですよね。ノイズが入ってるのもなんだか演出のように思えるハイカラ感。
基本的に軽やかでリズムの取り方がシャープなのがクライスラーの特徴で、小気味よさを感じられます。まだ聴いたことがないという方は、ぜひ聴いてみてください！

さて、動画の中でもうるさく字幕で語っていますので、この曲の一番の魅せ所のポルタメントについては、ここでは割愛いたします。

この曲は聴いていただいたとおり、洒落ているのに切なくて、秋の雰囲気に合いますよね。落ち葉とか、柔らかくて涼しい気候とか。シャンソンっぽい雰囲気があるな、と思うのですが、『枯葉』にイメージをかぶせてしまっているからかもしれません。
短調と長調のテーマを交互にくりかえすこの曲、一説では、短調では恋心が思い通りにいかない辛さを、長調で恋愛に浮かれ切ったさまを表現しているということだそうで…。タイトルに反して、基本的にのろけ…ええと、恋愛の山谷を表現しているんですね。悲しみという割に軽やかで短調なのに根明で、失恋曲の様相ではないな、という印象だったので調べてみて納得です。
ちなみに引き合いに出した『枯葉』はがっつり失恋ソングです。イヴ・モンタンの深いバリトンがエロティックな名曲で、こちらもおススメです！

上にも書きました通り、クライスラーはクラシック界では数少ない自身の演奏が残っている作曲家です。クラシックは作曲家をリスペクトした演奏が前提なので、演奏をする上で作曲家自身の演奏を聴けるのは本当に助ります。
ただ、クライスラーの演奏はすごく癖(?)がありまして…。その癖のひとつが、「緩急が自由自在」。楽譜と照らし合わせながら聴いていると「あれ？ ここはmemo mosso(※1)じゃないの…？ 速くなってない…？？」となることも。つまり、ご自分で書いた楽譜の指示や設定を守っていないという…。だいたいこの曲の最初に書いてある速度指示、Tempo di "Ländler"(※2)ってアバウトすぎませんか！
が、その自由な緩急の付け方がまた曲の魅力を引き出しているんですよね。

※1)meno mosso(メノ・モッソ)：今までより遅く、という速度の指示語。
※2)Tempo di "Ländler"(テンポ・ディ・レントラー)：「レントラー」の速さで、という速度の指示語。レントラーとはドイツ、オーストリアあたりに古くからある3拍子のダンスで、「速度はワルツより遅い」(アバウト！)。ということでワルツを調べてみると、「18世紀末に(中略)レントラーから発生した3/4拍子の優雅な舞曲。昔ながらの比較的速度がゆるやかなものと(後略)」(『音楽中辞典』音楽之友社)とあります。
クラシック的には「慣習的なワルツの速度はご存知ですよね？」という前提があるので、ワルツを知っている人にはうなずける指示ですが、「♩=100」とか具体的な数字できっちり示されるポップスに慣れてると仰天しますよね。個人的な見解ですが、そのおおらかさ、伝統に裏付けられた世界観がクラシクの魅力でもあると思います。

クライスラーの小品は難度が高いものが多いですが、聴き心地がよくかっこよく、聴き映えがします。ひとつ持ち曲にしておくと色々なシーンで使えるのでおススメですよ！
さすがにこの曲はタイトルがタイトルなので披露宴の余興にすると誤解されそうですが…(笑)。

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