フルートを吹いていると、どうしても息を吸う場所が必要になります。       フレーズの途中にある短い休符。 AメロからBメロ、サビへ移る前の間。 本当はつなげたいけれど、息の都合でブレスを取る場所。       楽譜の中には、音が鳴っていない時間がたくさんあります。 けれど私は、その時間をただの「 […]

音のない時間は、休みではない─ブレスと休符に宿る音楽のこと【島村楽器 名古屋パルコ店|フルートインストラクター 森川健士】

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公開:2026年08月11日

更新:2026年08月11日

フルートを吹いていると、どうしても息を吸う場所が必要になります。

     

フレーズの途中にある短い休符。

AメロからBメロ、サビへ移る前の間。

本当はつなげたいけれど、息の都合でブレスを取る場所。

     

楽譜の中には、音が鳴っていない時間がたくさんあります。

けれど私は、その時間をただの「休み」とは考えていません。

     

身体としては息を整える時間かもしれません。

でも、音楽としては完全に切れてしまう時間ではないと思っています。

フルート・オカリナ インストラクター森川 健士

フルート・オカリナ インストラクター森川 健士

クラシックのフルート奏者として研鑽を積む一方、「和」の表現に定評がある。木製フルートを愛用し、尺八の技法であるムラ息、メリ、カリ等の奏法を取り込んだ音作りは、従来の西洋フルートの透明感に日本の陰影を重ねた音として評価を得ている。 ソロ・アンサンブルでのリサイタル、プロオーケストラの客演、その他商業施設や企業イベントでの演奏や、2025年パリ「Fête de la musipue」出演、メキシコ観光大臣ご一行の前での演奏等、様々な演奏活動を展開。 日本フルートコンヴェンション・アンサンブル部門金賞、同アンサンブルアワード部門入賞、その他コンクール入賞多数。 CBCラジオなどメディア出演もあり。

筆が紙から離れても、書は続いている

私はブレスや休符を、書道の筆の動きに近いものとして考えることがあります。

     

一画目を書いた後、筆が紙から離れる瞬間があります。

けれどその時間は、筆を置いて休んでいるわけではありません

次の一画の位置、角度、勢いへ向かって、筆は空中を移動しています

一画書いては筆を置き、また別の気持ちで次の一画を書くわけではない。

尽きることのない墨をまとった筆で、物語を一画一画つないでいくような感覚です。

     

フルートのブレスも、それに似ていると思います。

音が鳴っていない間にも、次の音へ向かう呼吸や意識は続いています。

短い休符は、次の音へ向かう時間

1拍、2拍、それより短い休符やブレスでは、特にこの感覚が大切です。

     

そこで気持ちが完全に切れてしまうと、次に出てくる音が別のものになってしまいます。

音が止まった瞬間に音楽まで止めるのではなく、次の音へ向かう途中に、たまたま音が鳴っていない時間がある

     

そう考えると、ブレスの取り方も少し変わります。

     

急いで吸うのではなく、次の音に必要な空気を迎えに行く

休符をただ数えるのではなく、その間に音楽がどこへ向かっているのかを感じる

     

ブレスは、音楽から離れる時間ではありません。

次の音楽へ向かうために、音のない場所を通っている時間なのだと思います。

長い休みには、余韻と準備がある

たとえば、メロディを吹いたあとに8小節休みがあり、その後またメロディが戻ってくる場合。

この8小節すべてが、同じ意味の「休み」ではないと思います。

     

メロディが終わった直後の1小節には、今吹いた音の余韻があります。

武道などで使われる「残心」という言葉がありますが、音が終わった後にも、まだ気配が残っているような時間です。

そして、次のメロディが始まる前の1小節には、今度は準備があります。

     

伴奏のテンションを感じる。

     

音楽の空気の変化を聴く。

     

次に自分が入る音色や呼吸を思案する。

     

休符は、ただ待っている時間ではありません。

前の音の余韻を受け取り、次の音へ向かうための大切な時間です。

ブレスを取らずに、流れを感じてみる

フレーズの途中に休符があり、そこでブレスを取らなければいけない時。

練習では、その少し手前から始めて、あえてブレスを取らずに先までつなげてみることがあります。

     

もちろん、本番で必ずブレスを取らないという意味ではありません。

目的は、ブレスを我慢することではなく、本来その音楽がどこへ向かっているのかを身体で感じることです。

     

譜面は分かりやすいように倍のテンポで表記しています。

たとえば、バッハの《G線上のアリア》のように、長い音から始まる旋律があります。

最初のロングトーンを吹いたあと、息の残量を考えてブレスを取ることがあります。

もちろん、息が必要であればブレスを取ること自体は悪いことではありません。

ただ、そのブレスによって音楽が一度収まりすぎてしまったり、次の音へ向かう流れが弱くなってしまったりすることがあります。

こうなりすぎると良くない譜例。

この旋律は、最初の長い音だけで完結しているわけではありません。

少なくとも数小節にわたって音楽が展開していくため、最初のロングトーンを「そこで終わる音」として処理しすぎないことが大切です。

さらに、その先のフレーズへも音楽はつながっていきます。

ここで一度、ブレスを取らずにその先へ流してみると、その長い音が単独で置かれているのではなく、次の音へ向かって続いていることが分かる場合があります。

その流れを感じたうえで、あらためて必要な場所でブレスを取る。

すると、同じ場所で息を吸っていても、音楽がそこで途切れにくくなります。

     

ブレスは、音楽を止めるためのものではありません。

次の音へ向かうために、音のない場所を通っている時間なのだと思います。

ブレスの位置で、音楽は変わる

クラシックでもポップスでも、ある程度ブレスの位置が決まっていることはあります。

けれど、実際には演奏する人によって違いが出ることもあります。

それは、一息で吹ける長さの違いだけではありません。

     

その人がフレーズをどう感じているのか。

歌のメロディなら、歌手のブレスに合わせるのか、歌詞の単語や意味の切れ目を大切にするのか。

あるいは、器楽として自然に聴こえる場所でブレスを取るのか。

     

何を大切にするかで、ブレスの位置は変わります。

そして、ブレスの位置が変われば、音楽そのものも変わっていきます。

     

どこで息を吸うかは、単なる都合ではありません。

その人が音楽をどう感じているかが表れる、大切な表現の一部です。

休符まで音楽として感じる

音が鳴っている時だけが、音楽ではありません。

     

音が消えた後の余韻

次の音へ向かう呼吸

伴奏の中で少しずつ高まっていく緊張

まだ音になっていないけれど、すでに始まっている気配

     

そのすべてが、音楽の時間です。

     

ブレスで音楽を止めるのではなく、ブレスで次の音へ向かう。

休符をただ数えるのではなく、休符の中にある音楽を聴く

     

音のない時間まで音楽として感じられた時、演奏の流れは少し変わるのではないかと思います。

    

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フルート・オカリナ インストラクター
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