音楽ファン必読!恩田陸「蜜蜂と遠雷」を読んでみた
島村楽器では年に一度、全国の生徒さんが腕を競い合う音楽コンクールが催されます。ミュージックサロン亀戸からも才能溢れる生徒さんが毎年のように本選に選ばれ、我々スタッフも一緒にハラハラドキドキ、結果に一喜一憂します。どんなに思い入れいっぱいで応援したとしても私たちの出来ることと言えば影からお支えするだけ、コンクールに挑む参加者の心持ちたるや、想像に難くありません。
第156回直木賞を受賞した恩田陸の「蜜蜂と遠雷」は国際的なピアノコンクールに挑む4人のコンテスタントの心理的葛藤を描ききった小説です。2017年本屋大賞にも選ばれ、直木賞も受賞した名実共に揃った傑作、コンテスタントを応援する側として私、中川も読んでみなくては!辞書のように分厚い2段組の本ですが、怯まず手に取ってみました。
ピアノを持たず養蜂家の父親と各地を点々とする生活をしながらも、自由な表現力と驚異的な音感持った風間塵、天才少女として幼い頃プロとして活躍しつつも、母親の死でピアノから遠ざかっていた栄伝亜夜、誰もが目に留める容姿と演奏技術でスター性を兼ね備えたエリートのマサル、楽器店に勤めながら演奏家としての道を模索し、生活者としての音楽について考える高島明石。
この異なる才能を持ち合わせた、全く違うタイプの4人が3年に一度の国際ピアノコンクールで才能をぶつけ合う…そこにドラマが生まれない訳がありません!
予選から優勝者を決めるまでのたった2週間ほどの話なのですが、その面白いことといったら、誰が本選に残るのか、ミステリーを読んでいるかのようにページをめくる手が止まりません。素晴らしいのはコンクールで演奏される数々のクラシックの名曲を言語化する恩田陸さんの文章力で、まるで言葉で音楽を奏でているかのようでした。 本の冒頭に載っているコンクールの課題曲をBGMに読みたくなること必須、読み進めて行くうちに特定のコンテスタントを贔屓したくなる気持ちが湧いていて、どこまで進めるのかワクワクが止まらなくなります。
私は慎ましくて謙虚なサラリーマン演奏家の高島さんを応援せずにはいられませんでした。彼が登場し演奏する場面ではまるで曲を聴いているかのように気持ちが高揚して目頭が熱くなってくるのです。それほど、それぞれの演奏の深遠なる世界観を表現する文章力が卓越していました。
コンテスタントの4人はこれだけ才能に溢れた個性的な人物なので、もっとどろどろとした感情が渦巻くのかと思いきや、意外にも皆「善い人」でその辺がちょっと物足りなく感じられる場面もあるかもしれません。でも、逆にそのふんわりとした空気感は少女マンガのようにも感じられ、爽やかであり心地良いのです。私はなぜか羽海野チカさんの絵が思い浮かび、ドラマチックなコンクールの世界がさらに広がっていきました。
実際にこの本の登場人物のCDがあったら聴き比べてみたいな…最後の最後で優勝者が決まるとあれだけ高揚した気持ちが凪いで全ての参加者に拍手を贈りたい穏やかな気持ちになりました。音楽コンクールに参加するコンテスタントの気持ちを疑似体験してみたい方は是非ご一読を。心震える音楽小説でしたよ!
ミュージックサロン亀戸 中川
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