YouTubeでも大人気のユッコ・ミラー “サックスを手にしたら無敵”と語る、前向きでパワフルな彼女の魅力に迫る

YouTuberとしても活躍中のサックスプレイヤー、ユッコ・ミラーが5枚目のアルバム『City Crusin’』をリリースする。

彼女が作曲したオリジナル曲2曲のほか、YouTubeで話題となったカバー曲を生バンドによるジャズアレンジでレコーディング。彼女が歌唱するカバー曲も収録するなど、多彩なアプローチが楽しめる作品だ。

高校生のときにサックスと出会い「この道のプロになる」と直感的に思ったという彼女。このインタビューでは新作アルバムについてはもちろん、使用している楽器の紹介、高校時代の練習スケジュール、驚異的な行動力を続ける上でのメンタリティ、企画力溢れる動画制作の裏側についてなど、様々な角度から彼女の魅力について探った。

ユッコ・ミラー
三重県出身。サックスプレーヤーとしての活動のほか、作曲家、編曲家、YouTuberとしても活躍。3歳よりピアノを、高校で吹奏楽部に所属しアルトサックスを始め、在学中よりパリやウィーンなど、海外演奏旅行、数々のコンテストにてグランプリを受賞。2015年には、ファンキーサックスの女王キャンディー・ダルファーに気に入られ、彼女の来日公演に異例のスペシャルゲストとして出演。2016年に、アルバム『YUCCO MILLER』でメジャーデビューし、これまで4枚のアルバムをリリースしている。2ndアルバム『SAXONIC』は、JAZZ JAPAN AWARD 2018 アルバム・オブ・ザ・イヤー(ニュースター部門賞)を受賞。

「やり続けていたら絶対私はすごくなる」と自分を信じて

――ユッコさんがサックスを始めたきっかけは、高校時代にお友達に付き添った吹奏楽部の体験入部。存在も知らなかったサックスを吹いた瞬間に「これでプロになる」と思われたそうですね。

ユッコ それまで好きなことも、趣味特技も特になかったんです。習っていたピアノは全然好きになれなかったし、クラスでも地味だし、私って何にもないんだなとずっと思っていて。でもサックスを吹いた瞬間に「やっと一生懸命打ち込めることに出会えた!」と思ったんですよね。すぐに「これを極めたい。この道でプロになりたい」と思ったんです。

――「自分には何もない」と思っていたからなおさら衝撃を感じたところも?

ユッコ そうですね。あと、小学校の音楽の授業でリコーダーを吹いたときにそれと似た感覚があったのも影響していますね。「縦に持って吹く楽器」は自分にとって特別だと、サックスを吹いたときに再確認したというか。前世がサックス奏者なのかなと思うくらい、自分にはこれだ!と直感的に思ったんですよね。

――吹奏楽部となると中学生から経験のある人も多いと思いますが、どんな練習をして経験者のスキルに追いつきましたか?

ユッコ サックスはトランペットやフルートとは違って初心者でも音を出しやすいし、おまけにリコーダーと指の配置は一緒だから、始めるハードルは低いんです。でもうまく吹けない自分が悔しくて、とにかく練習しました。朝6時から朝のホームルームまで学校の音楽室で練習して、授業の合間に早弁をして(笑)、4限目が終わってお弁当の時間になった瞬間からまた音楽室で練習、その日の授業が終わったら吹奏楽部で練習、それが終わったら路上ライブをして、家に帰って21時ぐらいまで練習して…みたいな日を毎日続けてました。

――練習、ツラくなかったですか?

ユッコ 全然! 心の支えがサックスだったので、練習が生き甲斐でした。練習で挫折しちゃう人も多いと思うんですけど、それは自分に自信がないからだと思うんです。うまくいかなかったとしても、「今うまくいかないだけ。やり続けていたら、絶対私はすごくなる。才能があるから絶対大丈夫。今日はできなかったけど明日できるかもしれないし、続けたら絶対できる」と自分を信じてきましたね。最強の武器(=サックス)を手に入れた私は無敵だと思っていました。

――だからユッコさんは高校時代、グレン・ミラー・オーケストラが地元で公演を行った際に出待ちしてサックスを披露したり、その後もエリック・マリエンサルのコンサート会場のそばで待ち伏せをしてレッスンをオファーしたりと、驚異的な行動力を発揮なさったんですね。

ユッコ そうですね(笑)。私は最強だから何も怖くないし、とにかくアタックだ! と思っていました。高校の吹奏楽部の顧問の先生がコンクールに出場しない主義だったので、こっそりひとりでコンクールに出場したこともあって。それで優勝しちゃって地元の新聞に載ってしまったもんだから、見つかって先生に怒られたりもしましたね…(笑)。でも人生1回きりだし、ちょっとでもやりたいなと思ったことは全部やってみたほうがいいと思うんです。もちろん失敗もあるけど、失敗したって死ぬわけじゃない。怒られたとしても死なないから大丈夫、と思っています。

もっと広くサックスを知って欲しい、若い子たちにもサックスの魅力を伝えたい

――ユッコさんはYouTubeでJ-POPのカバー動画をアップする一方、水道管やじょうろなどでサックスを作るなどアイディア満載の企画動画もアップなさっていますが、どういうきっかけで身の回りにあるものでサックスを作ろうと思われたのでしょう?

ユッコ 料理をしているときにニンジンを手に取ったら、ふと「これでマウスピースを作ってみたらどうなるんだろう?」と思って。それで試してみたら吹けちゃったんですよね。それで「これYouTubeにしたら絶対面白いじゃん!」と思い、その流れで水道管やじょうろでサックスを作ったりするようになりました。視聴者さんからも親近感を持ってもらえるようになったし、大御所のジャズサックス奏者の方から初対面の段階で「この前YouTube見たよ」や「じょうろ吹いてたよね」と声を掛けてもらえるようになりました。

――想像以上に色んな方々がご覧になっていらっしゃるんですね。

ユッコ それもあってか、ライブに来てくださるお客さんも「YouTubeを見て今回初めてライブに来ました」と言っていただくことが格段に増えました。その方たちがCDを買ってくれたり、「ユッコちゃんの動画でサックスを知ったんだけど、面白そうだから買っちゃった」、「サックス練習してるんだ」などと声を掛けていただくことも増えて。すごくうれしいですね。

――最新アルバム『City Cruisin’』に収録されているJ-POPカバーは、ユッコさんのYouTubeチャンネルで人気の高いカバー動画から選ばれているそうですね。J-POPカバーからサックスの練習を始める方もいらっしゃると思いますが、ユッコさんはいかがでしたか?

ユッコ 私は当初ジャズばっかり吹いていました。でも、ジャズファンの方だけでなくもっと広くサックスを知って欲しい、若い子たちにもサックスの魅力を伝えたいと思ってJ-POPをカバーするようになったんです。「サックスは声にいちばん近い楽器」と言われるように、結構どんな曲にも馴染むんですよ。ボカロを中心に手掛けているみきとPさんの『ロキ』みたいなラップっぽい曲も意外と合うので、どんな曲もカバーできるんじゃないかな。J-POPから始めてみるのもいいと思います。

――J-POPをカバーするコツと言うと?

ユッコ 原曲をしっかり聴くことですね。その歌手の方がどんなふうに歌っているのか、どんな表現をしているのか、どんな歌詞なのか、何を歌いたいのかを把握して、それをどうやってサックスで表現するかをしっかりイメージするといいと思います。YouTubeには打ち込みで作ったカラオケ音源でサックスを吹いたものをアップしているんですけど、アルバムは全曲気心知れたプレイヤーとジャズアレンジで録り下ろしをしているので、ぜひ生バンドで作るグルーヴの気持ちよさを知って欲しいですね。ここからジャズに触れてくれる人が増えてくれるといいなと思っています。

サックスの魅力は、表現力が無限大なところ

――今はどんなサックスを使っているんですか?

ユッコ YAMAHAのYAS-62初期型モデルをメインに使っていますね。『City Cruisin’』もこれで全曲レコーディングしました。高校生のときにお母さんに「私、絶対プロになるから買って!」と頼んで中古で買ってもらったサックスなんです。

新アルバムでも使用しているユッコ・ミラーの愛用サックス(YAMAHAのYAS-62初期型モデル)。

――初めて手にしたサックスを今メインとして使っているんですか。

ユッコ 高校を卒業した後に「プロを目指すならもっと高いものを使わなきゃいけないんじゃないか」という固定観念から高いヴィンテージものや別のメーカーのものも使っていたんですけど、ふと「高校生のときに買ってもらった初めてのサックスを今吹いたらどんな感じなんだろう?」と思って、実家から送ってもらったんです。そしたら吹いた瞬間に高校生のときに感じていた「私はこれで頑張るんだ!」というキラキラした想いが一気に蘇ってきて。おまけに調べてみたら海外のプロのジャズ奏者でも同じ型のサックスを使っている方も多くて、「なんだ、これ1本あれば良かったんじゃん」と1周回ったところなんですよね。

――アルバムに収録されている応援ソングの『Cheer』と、ノスタルジックな『My Memory』という2曲のオリジナル曲が今のユッコさんから生まれたのは、そのサックスがキラキラしたあの頃の想いと共に連れてきたものなのかもしれませんね。

ユッコ たしかに! 母いわくサックスに出会ったころの私はめちゃくちゃ目が輝いていたらしくて、それを見て「これは買ってあげなきゃいけないな」と思ったらしいんです。それからずっと親も応援してくれていて、いつも私のことを応援してくれているファンの方やYouTubeでコメントをくださる方がいて、そういう人たちのおかげで今も私はサックスを続けられている。私からも皆さんを励ますような曲を作りたくて『Cheer』が生まれました。『My Memory』は思い出を振り返るような感覚の中で作っていったので…まさにこのサックスが連れてきてくれた2曲ですね。

――竹内まりやさんの名曲『プラスティック・ラブ』のカバーは、ボーカル&サックスバージョンとサックスオンリーバージョンが収録されていて、色んなチャレンジを続けていることがうかがえました。

ユッコ サックスが大好きなんですけど、今回このレコーディングにあたってボイトレに通ったりもして、自分ができないことができるようになっていくことはすごく楽しいなと、改めて噛み締めましたね。つねに違うことをしていたいから、どんどん新しいことにチャレンジしたい。だからスランプとかも特に感じたことがなくて(笑)。『City Cruisin’』の制作でも色んな新しい発見があって、楽しかったですね。

――そんな今のユッコさんが思うサックスの魅力とは?

ユッコ 表現力が無限大なところ。ビブラートも掛けられるし、音をすごく歪ませることもできる。おまけに声という人の耳にダイレクトに入ってくるものに近い成分を持っている。そんな音を自分の好きなように表現できるなんて最強ですよね。その人の持つ声や骨格によって音も全然違いますし、個性が出る楽器だなと思います。私のYouTubeを見て60歳からサックスを始めた方もいますし、楽器がある生活は幸せになれると思うんです。練習すれば必ずうまくなるし、音楽はたくさん聴けば聴くほど引き出しが増えていく。サックスに限らず、皆さんにも楽器と一緒に楽しく過ごして欲しいです。

ニューアルバム『City Cruisin’』

CD/ダウンロード/ストリーミング/ハイレゾ 発売中
KICJ-860/3,300円(税込)

《収録曲》
1.Cheer
2.うっせぇわ
3.プラスティック・ラブ Vocal ver.
4.レイニーブルー
5.「名探偵コナン」メイン・テーマ
6.夜に駆ける
7.Lemon
8.風のとおり道
9.プラスティック・ラブ Sax ver.
10.My Memory
Bonus Track ようこそジャパリパークへ

取材・構成/ビッグ・バン・センチュリー

この記事を書いた人

沖 さやこ

フリーランスライター。神奈川県横浜市生まれ。2009年に音楽系専門学校を卒業し、音楽ライターのアシスタントを務める。2010年5月より現職。主に音楽、漫画アニメ、ネットシーンなどカルチャー全般の取材・記事執筆を行う。