音楽プロデューサー・北原京子さんにインタビュー!映画『耳をすませば』をとおして見えた音楽制作の裏側とは…?

1989年に少女コミック誌『りぼん』で連載された『耳をすませば』。

1995年にはスタジオジブリがアニメーションを制作し、人気を博した名作が、清野 菜名&松坂 桃李のW主演で実写映画化。2022年10月14日(金)に全国の劇場にて公開される。本作は、中学生時代の月島 雫、天沢 聖司のエピソードはもちろん、編集者、チェロ奏者として奮闘するふたりの10年後のストーリーも見どころだ。

Happy Jamでは本作の音楽プロデューサーを務めた北原 京子さんにインタビュー。映画『シン・ウルトラマン』『キャラクター』『未来のミライ』『君の膵臓をたべたい』など数多くの作品に関わってきた彼女に、映画の音楽プロデューサーという職業、そして『耳をすませば』の音楽制作について聞いた。

与えられた条件下でどれだけのものを提示できるかがプロの仕事

――映画における「音楽プロデューサー」とはどんな仕事なのでしょうか?

北原 映画業界全体でも、音楽プロデューサーとして仕事をしている方は、じつは数人しかいないんですよ。その役割は映画に関わっている方でも意外とわからないかもしれないですし、仕事のやり方も作品によってかなり違うんです。企画の立ち上げ段階から加わる場合もあれば、座組が決まっているところに呼ばれることもあって。

最初から関わる時は、映画で使用する音楽の提案から始まり、劇伴(映像に合わせて流す音楽)をどなたにお願いするか、主題歌をどうするかなどを監督やプロデューサーと話し合いながら進めていきます。映画における音楽部門を責任持って担うということですね。

音楽を作るだけではなく、映像とフィットさせるための最終的な音の調整や、映画館の5.1chの音響に対応させる作業まで行います。あとは権利処理、予算管理ですね。昨今予算が厳しくなっていく中、「オーダーには応えたけど、お金がオーバーしちゃいました」ではプロとは言えないので。もちろん作品によっても異なりますが、与えられた条件下でどれだけのものを提示できるかが大切なんですよね。

――『耳をすませば』は、どのようなところから始まったのでしょうか?

北原 じつは私が参加したのはクランクインの直前だったんです。本来なら半年以上前から準備をするのですが、急遽監督から呼ばれまして(笑)。映画の中で音楽を扱うことって、すごく難しいんですよ。役者さんも芝居をしながらそれ以外の要素が加わるわけですから。楽器だけじゃなく、たとえば馬術や茶道などもそうですが、専門的な所作やマナーを覚えることは役者さんにとって大きな負担。もちろん練習することは大切なのですが、芝居として自然に見せるための練習をまずはしていただきました。

上手く弾くことよりも、芝居を成立させることが大切

――出演者のみなさんに楽器に慣れてもらうことも、北原さんの役割なんですね。

北原 そうですね。楽器を演奏する役を演じる場合、役者さんは“弾く”ということを意識しがちなんですが、必ずしも演奏そのものが出来なくてもいい。演奏シーンにおいても、芝居を見せることが目的ですし、演奏する楽曲に合わせて、弾き音を完璧にするよりも弾き姿が自然に見えればいいということもあるんです。そのあたりを取捨選択しながら、いい芝居を作れるような練習方法を考えるのが重要ですね。

――確かに「音楽家の役をやるためには、ある程度は弾けないといけない」と思ってしまいますね。

北原 役者さんは「監督や共演者、スタッフの前で未完成変な音を出したら恥ずかしい」と思ってしまいがちですが、上手くなくていいんです。MVの手法と同じですが、プレスコと言って、前もって録音した音に合わせて“当て振り”撮影をするので。“どれだけ自然に再現できるか”が大事なんです。もちろん弾けたほうがいいですが、短期間で楽器を完全にマスターすることは難しい。芝居として成立させることが重要だし、演奏に気を取られてしまい芝居がお留守になったら意味がないんですよね。私は演奏家ではないので、練習の時には楽器指導の方にも入っていただき、共に練習方法を開発してゆきます。

――松坂桃李さんがチェロを演奏するシーン、本当に自然でした。もともと楽器のセンスがあるんでしょうか?

北原 それもあるでしょうし、芝居の凄みで見せることができる方なんですよね。もちろんご自身の練習もかなりやっていたと思うし、撮影でもうっとりするほどの演奏の芝居を見せてくれました。わかる人が見れば指の動きなどが違う箇所もあるのかもしれませんが、芝居としてしっかり成立していたし、それが私の目指すところだったので。

じつは『耳をすませば』の撮影は、コロナの影響で何度か中断しているんです。その間、松坂さんは別の現場もありましたし、撮影が再開した時は「(チェロの弾き方)忘れちゃいました」と仰っていて(笑)。それでも数日間でしっかり感覚を取り戻してくれたし、やっぱりすごい役者さんなんだなと思いました。演奏シーンを見たレコーディングの弦の演奏者の人たちが「すごい、本当に弾いているんだ!?」と言った時は、「よし、成功だ!」と嬉しくなりました。クライマックスの演奏シーンの表情も良かったですね。群衆の中で弾かなくちゃいけなかったので、かなり大変だったんですが(笑)。

――映画の劇伴は、弦楽器とピアノなど生楽器の響きを活かした音楽が中心ですね。

北原 まず私のほうで楽曲のイメージを提示しました。平川(雄一朗)監督も同感、ということで劇伴を担当した早見優さんにイメージを元に作っていただいたという流れですね。この映画は人の気持ちによってストーリーが動く作品なので、音楽も“ささやかな想いを称える”質感が合うだろうなと。大人になってからの恋愛を描いた場面では、ある程度、量感のあるオーケストレーションの楽曲もありますが、基本的にはパーソナルな心情に響く音楽になっています。

――映画を観た方が、楽器やクラシックに興味を持つきっかけになるかもしれないですね。

北原 中学時代の聖司を演じた中川翼さんがチェロを演奏する場面も素敵だし、「自分もあんな風に弾いてみたい」と思ってくれる方もいるのかなと。クラシックというとどうしても作法ありきと言いますか、敷居が高いと感じてしまいがち。でも、この映画の大団円のシーンのように、人と一緒に音を鳴らすのはすごく楽しいことだし、もっと気軽にやってみてもいいと思うんです。『耳をすませば』を観てくださった方が、そんな気分になってくれたら嬉しいですね。

音楽に携わる仕事のやりがりと面白さとは

――北原さんご自身のキャリアについても聞かせてください。やはり映画、音楽に興味があって、この業界を志したんでしょうか?

北原 実はそうではなくて、大学生の頃はレコード会社に入りたいと思っていたんです。ただ、当時は音楽業界の状況があまり良くなくて、レコード会社の方に「悪いことは言わないから、やめておきなさい」と言われたりもしたんですよ。結局、ひょんなことから東宝に入社して音楽部に配属されたのですが、映画に詳しいわけではないし、辞めようかと思ったこともありました。色々な人との出会いの中で、この仕事の面白さを実感するようになり、「一生やっていこう」と決めたのですが、映画に関しては実際に仕事をやりながら覚えたことのほうが多いですね。

――当然、幅広い音楽の知識も必要ですよね。

北原 そうですね。私自身も、もともとハードな音楽リスナーなんですよ。好きなジャンルは深いところまで聴いていますし、そのほかにも様々なジャンルの音楽を聴くようにしています。『耳をすませば』もそうですが、仕事でも自分のマニアックな部分を少し入れるようにしているんですよ。そうすることでほかの人にはない提案ができるだろうし、私自身も楽しいので(笑)。

――「この場面にはこういう音楽が合うはず」という意図が上手くハマった時は、気持ち良さそうですね。

北原 それがこの仕事のやりがいのひとつですね。映画は総合芸術なので、映像、セリフ、効果、音楽など、すべての要素がまとまることで、初めて観てくれる人の心を動かすことができる。その一部として役割を果たせることが、この仕事の良さなので。時々「もう二度とやらない!」と思うほど大変なこともありますが、しばらくすると忘れちゃうんですよ(笑)。

――読者の中には、音楽プロデューサーという仕事に興味を持つ方もいると思います。

北原 私の仕事は稀かもしれないですが、音楽という目に見えないものに関わる仕事はとても面白いと思いますよ。人前で弾いたり歌ったりするだけではなく、エンジニアやミキサーなど、音楽を他者に伝えるための仕事は色々あるし、それぞれに面白さがあって。そんな側面もぜひ知ってほしいと思いますね。

10月14日より全国ロードショー

©︎柊あおい/集英社
©︎2022『耳をすませば』製作委員会

取材・構成/ビッグ・バン・センチュリー
ロケ地/シマムラストリングス秋葉原

この記事を書いた人

森 朋之

音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライター、ボカロPまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、AERA dot.。