印刷廃材で楽器づくり!? 印刷業界と日用品演奏ユニットkajiiがココカラ市場でSDGsコラボ

――印刷廃材楽器は、どのような流れで製作しましたか?

クマーマ:まず印刷廃材を10種類くらい僕らの事務所に持ってきてもらいました。
創:木とパイプがあれば結構いろんな楽器ができるので、その二つがあったから何かしらやれるかなって。それで実際に(鈴木さんの会社の)倉庫に行かせていただいて、いろいろ素材を見ました。そしてパレットを解体して、いい音がする木を探して、長さを変えて木琴を作って。木は加工ができちゃいますけど、あまり原型を崩さないようにするって制約が僕らの中にはあるんです。
クマーマ:kajiiとして普段から気をつけているのは、何の素材を使っているのか極力わかるようにすることなんです。楽器っぽくなると、楽器店で売ってるものだと思われてしまうので。ただ置いてあるだけ、つないであるだけに見えるけど面白い音がするという、そのギャップを楽しんでほしいなって。なので“こうすれば楽器として完成度が上がるけど、見た目が面白くないよね”ってラインが自分たちの中にあります。今回も、もっと木を綺麗に削って木琴みたいにすることもできるんですけど、パレットと同じような木の並びにするとか、台にも印刷廃材を使うとか、悩みながらやっていった感じですね。

――製作時に特に苦労した点を教えてください。

創:触ってみて初めて知ったのが、パレットには規格がないんですよ。一台ごとに大きさが違うし、使われている木もペラペラなものもあれば、いい木もある。素材が揃わないんです。だから、いい音がする木があってももう素材がないことがあって。板の音色が致命的に合わないこともありましたし、素材が限られているのは大変でしたね。しかも木目の入り方がめちゃめちゃなので、使えない部分が結構あって。素材の選定は難しかったです。
クマーマ:普通、木琴を作るときは全部同じ木を使うんです。でも、同じ木が出てくるかわからない状況で作るので(笑)。「べーしかん」は、紙管の底にフタがあるものとないものがあって、今回はフタがあるほうが音が良いのでそちらを使いました。でも、同じ形状でもよく鳴るのと鳴らないのが存在したんです。フタの微妙な厚みの違いとか、底のダンボールの剝がれ具合とか、個体差がある中からひたすらいい子だけを探す。これが意外と少なくて、100本近く集めていただいたんですけど、今ここにあるものくらいしかいい音が鳴らなかったんです。一回切っちゃったら長くできないから失敗できないですし、2ミリずつぐらいで切ったりして、チキンな感じでやりました(笑)。
創:廃材なら何でもいいってわけじゃなくて、その中でもシビアに選ばないと楽器にするのは難しい。“何でもできますよ”ではないんですよね。
クマーマ:あとは、どういう風に配置するかですね。パレットでできた木琴を机に置いただけだとつまらないし、お客さんからも見えないし。
創:手作り楽器って、台が難しいんです。音が出る部分は結構いろいろ作れるけど、どう見せるかが苦労するところで。今回は別のパレットを使って、A型看板みたいにセットしたんですけど、そうすることで僕らも叩きやすくなりました。

――そういえば、「パレッキン」は、板の一部に節がありましたよね。

創:その板しかなかったんです(笑)。最後のほうには使える部分はなくなっちゃって。
クマーマ:あと、紙管がくっついている板がいくつかあるんですけど、あれは苦肉の策でした。板自体の音量が小さくて、ほかとのバランスが取れなくなるので、紙管をくっつけてちょっと音量を上げているんです。
創:紙管が共鳴体になってるんですよね。
クマーマ:そういう細かい調整をしながら、なんとか楽器としての完成度を高めていきましたね。目指してる音があって、それに向かってどうやったらアプローチできるかなっていうのを自分たちなりに考えて作ってますね。
創:手作り楽器を作ってみると、売っている楽器のすごさがよくわかります。まず音色が揃うっていうのが非常に難しいですね。みんな当たり前に使っているから、すごさをわかってないなってよく思います(笑)。
クマーマ:手作り楽器を通ってからエレキベースを弾くとむちゃくちゃいい音がするんですよね(笑)。それを含めて、自分たちの耳が鍛えられた部分もあって、よりいい音に向かえるようになったなって感覚があります。

Asumi×kajii『春の風にのせて』2022年5月25日リリース

――シンガーソングライターのAsumiさんと制作したアルバム『春の風にのせて』でも、日用品楽器は登場しますか?

クマーマ:歌が一番輝く楽器選定をしようということで、日用品楽器にこだわらずに作っています。ただ、“これは日用品楽器でやったほうが面白いよね”という曲では僕たちの楽器も使っていて。普通のミュージシャンではこの音にはならないかなというアルバムに仕上がりました。

――日用品楽器はどのようにレコーディングするのでしょうか?

クマーマ:事務所として部屋を借りているんですけど、そこであれこれマイクを使って自分で録音しています。マイキングもセオリーがまったくなくて(笑)。食器のいい音の録り方なんて、どこを探しても出てこないから。
創:エンジニア殺しというか、初めて見た人はとても大変なんですよね(笑)。ライブでもPAさんを通さないことが多くて。どこからマイキングしていいかわからないので、時間がかかっちゃうんですよ。だから結局、セルフオペレーションでやることが多いです。
クマーマ:そこが楽しみでもあって、この時代にマイキングがわからない楽器ってほとんどないんですよ。それを自分たちがやっているというのはある種の快感というか(笑)。なんとか音楽的にならないかなって、あの手この手で考えながらやるのが楽しいですね。

今回の企画では、楽器や音楽を通して印刷業界のサステナブルな取り組みを目や耳で感じることができました。印刷業界やkajiiのお二人は、今後もSDGsを意識した活動を続けていきたいと意欲を示しています。ぜひ、kajiiのSNS等で今後の活動をチェックしてみてください。

kajiiプロフィール

カジー/クマーマと創(そう)による日用品楽器ユニット。“音楽と楽器をもっと身近に”という願いから、130種類以上の日用品楽器を創り出し音楽を奏でる。名古屋を拠点に全国各地でコンサート、ワークショップ、特別授業を行っている。ちなみにメンバーの二人とも、パパである。

この記事を書いた人

神保未来

編集者、ライター、時々カメラマン。『Go!Go!GUITAR』の編集を経て、現在は音楽媒体を中心にフリーランスで活動中。趣味はフィルムカメラで写真を撮ること。