ギターの鳴り方考察 ~其の三~

これまで、振動の伝搬をメインに考察してきました。そこで生まれてくるのが、
「ボディやネックが振動しない方がいいんだったら、メチャクチャ重い鉄とか石とかでつくればいいんじゃね?」「ボディやネックを振動させないんだったら、材はアッシュでもメイプルでも、なんでもいいんじゃね?」という疑問です。

■倍音の考察

ボディの素材がサウンドに及ぼす影響についての考察の前に、倍音についての理解を深めておきましょう。

〇倍音とは?

~整数次倍音~

ギターで5弦解放A(440Hz)の音を出します。このAを基音とした場合、オクターブ上のA(5弦12フレット)は880Hzの周波数となります。これが第2倍音。
5弦24フレット、2オクターブ上のAは1,760Hzで、第4倍音です。

※5弦19フレット、1オクターヴと完全5度上のEは1320Hzで、第3倍音です。

このような整数倍の周波数を持つ倍音を整数次倍音と言います。

基音を鳴らすとこれらの整数次倍音も一緒に鳴っています。その構成によってギターのサウンドキャラクターが決まるのです。一般的に整数次倍音が多く含まれているサウンドを「豊かなサウンド」と呼ぶことが多いです。

~非整数次倍音~

整数倍以外の周波数を持った倍音を、非整数次倍音」と言います。これらを含むサウンドはノイジーでガサガサした印象のサウンドになりがちです。いわゆるディストーションサウンドは、この非整数次倍音を多分に含んだサウンドというわけです。

これらの整数次倍音と非整数次倍音の構成によって楽器のサウンドは決定されています。(何も含まれない基音だけの音はこのようなサウンド↓)

ここではあくまでも倍音についての基本的な理解があれば良いのでこれくらいにしておきますが、さらに倍音について詳しく知りたい、という方はこちらの記事を参照すると分かりやすいかと思います。

■ボディ材によるサウンドの変化

ギターの鳴り方考察 ~其の一~で分厚い鉄板だと弦振動が継続する、と書きましたが、かなりオーバーな表現ではあります。弦振動が全くロスしないという事はありません。弦と支柱との接合部では少なからず振動のロスも生まれます。

〇弦振動の逃げ方

エレキギターは木材で出来ており。ボディやネック等、弦以外が全く振動しないギターは見たことがありません。

実際にはこのように全体が少なからず振動しています。しかし質量のある材を使い、支柱と板との接合部等々をタイトにすれば鉄板に近づいていきます。それでも振動は弦から逃げていきます。

その逃げ方によって倍音成分に変化を及ぼし、サウンドが変化します。

〇振動効率/倍音成分を形成する木材

エレキギターでよく使われる材を、木材の重さを表す「気乾比重」で比べてみると…

木材 気乾比重
エボニー 1.16
ローズウッド(インディアン・ローズ) 1.04
メイプル 0.7
アッシュ(ノーザン・アッシュ) 0.69
 マホガニー  0.65

※アッシュは「ライトアッシュ」等様々なものが存在しますが、ここではかなり重い「ノーザン・アッシュ」を記載しています。

気乾比重とは木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値で、材の硬さや強度を表します。エボニーとマホガニーを比べると0.51の差がありますので、それだけでも振動効率が変わるのは分かりますし、ここに導管や粘り等々の複雑な要素が絡み合ってきます。

弦から伝わった振動がこれらの材に伝搬し、それぞれが複雑に絡み合う事でそのギターの音色が決定するので、これらを製作前に正確に理解するのは無理でしょう。

ただし、上記木材の質量や硬さをを目安にしてある程度の予測は立てられます。そういった予測と、サンプル製作を行って製品化されていくギターたちが、世の中に出ていくのです。


ちなみにこれがノーザンアッシュ。アメリカ合衆国北部~カナダが産地である為にこのように呼ばれます。S7Gではこのノーザンアッシュを多用しています。(木材についての知識を深めたい方はギタセレ「木材事典シリーズ」をご覧いただくと良いと思います。)

〇パーツ類

エレキギターは上記木材に加えて金属で出来たパーツも使用されます。


たとえばS7Gでも多く採用しているHIPSHOTのFixed Bridge。

Fixed = 固定した、据え付けの、動かない

の意味のとおり、ボディにがっつり固定して使用するブリッジです。ボディと一体になって弦を支えてくれるイメージですね。そのため弦振動が逃げにくく、弦のパワーは維持されやすいです。

それでも弦振動が逃げないという事は無く、その素材や、ネジの締め方ひとつで振動伝達の仕方が変わり、倍音成分は変わってきます。

〇ちなみに


GOTOHのGE101TS-CUSTOM。これはHISTORY TH-SV/Rに搭載されていますが、「特別仕様のスチール製サスティーンブロック」と記載があります。

スチール製サスティーンブロック?

ここまで読み進めて頂いた方はもう理解しやすいかと思います。そうです。ブリッジ下部にスチール製のブロックを装備する事によってブリッジ全体の質量を上げ、弦振動のロスを少なくしているのです。
STタイプなので、過度なサスティンはSTらしさを減らしてしまう可能性もありますが、STでもサスティンあるソロプレイがしたい、等の要望に応えられるブリッジです。

このブリッジを使用するだけでもサスティンはUPし、逆に倍音成分が変化してSTとは異なるサウンド傾向になるというわけです。

■まとめ

鳴り方考察 で書いてきた弦振動の維持/伝搬に加え、今回のような倍音成分が相まってそのギターのサウンド・キャラクターは決定されていきます。木材、金属製パーツ、弦によって決定されたサウンドは、さらにピックアップ、配線材、コンデンサー等々で色付けされ(または色付けされず)、最終的にそのギターの音になります。

冒頭の、「ボディやネックが振動しない方がいいんだったら、メチャクチャ重い鉄とか石とかでつくればいいんじゃね?」「ボディやネックを振動させないんだったら、材はアッシュでもメイプルでも、なんでもいいんじゃね?」といった疑問の答えとなったかと思います。
鉄や石ではその倍音成分が「ギターらしくない」サウンドになりますし、そもそも重すぎて弾けないです。
アッシュでもメイプルでも良いわけでは無くて、その木材の性質から生まれる倍音成分によってキャラクターが決まってくるので、一概に「重ければいい」というわけでもありません。

こう考えると複雑で深いですよね。容易に「このギター鳴るね」と言いづらくなってきます(汗)

次回はいよいよS7Gの構造と、なぜそういった仕様になっているのか、解説します。

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