ギターの鳴り方考察 ~其の二~

前回のギターの鳴り方考察 ~其の一~はお読みいただけたでしょうか。弦振動の伝搬について可能な限り分かりやすく解説してみました。今回はそのお話が実際のギターでどのように反映されるのか、実例を挙げながら解説してみたいと思います。

■おさらい

  • 左:段ボールに木の棒を立てて糸を張ったもの
  • 右:分厚い鉄板に鉄の棒を立てて糸を張ったもの

糸にエネルギーを与えてそのエネルギーが糸の振動に使われれば、マグネティックピックアップを載せた際により大きな電気信号に変換される。

■振動が糸以外に使われる場合

前回のお話を読んでいただくと、まるでサスティンが無くてパワーの無いギターはダメかのような印象も受けてしまうかと思い、それはそれで間違いである事を記載しようと思います。

①ST/TLタイプ

一般的なST/TLタイプはボディやネックが振動しやすい素材/構造になっています。


History TH-TV/M

このTH-TVはS7G同様アッシュボディですが「ライトウェイト・アッシュ」を採用しているため、弦からボディに振動が伝わりやすいです。

上記の物理法則からすると糸にエネルギーが残らないという構造です。ではそれが悪なのか? いえ、違います。ギターの種類がこれだけあり、TLにはTLの、メタル系ギターにはメタル系ギターの特徴があって、音楽ジャンルが多岐に渡る現代においてはその役割にあったギターがセレクトされています。


上の図は、TL等サスティンが短めのエレキギターをピッキングした時の波形をイメーしたものです。アタックがあって、その後一気に減衰します。


逆にLPタイプやS7Gでの波形をイメージしたものがこれです。アタックの後ゆっくり減衰していくので、そのぶんサスティンも長くなります。

ではTLはサスティンが無いから良いギターではないのか? そうではありません。


例えばカッティングやコードでTLをジャカジャカ鳴らした場合の波形は上記のようなイメージになります。


LP/メタル系のギターで同様に演奏するとこのようなイメージの波形です。

違いがお判りでしょうか。


TLは減衰が早いのでアタックからアタックまでの間に下がる音量が上記の紫矢印のように大きくなります。


LP/メタル系ギターの場合は上記オレンジ矢印のような感じです。


二つを並べてみると一目瞭然です。

サウンドを言葉で表すなら、TLは「ジャカジャカ」、LP/メタル系は「ゴォー」となり、アタックが目立ちづらいです。

また、ST/TLサウンドの形容詞でよく使われる「枯れたサウンド」。これはBLUESやPOPSでよく使われるサウンドですが、太くサスティンのあるギターでは表現できません。これがファンキーなカッティングや、ギターボーカルのコードストロークではST/TLなどのギターが頻繁に使用される理由です。

②アコースティックギター


History NT-C3

続いてアコースティックギターに関して言及します。この違いが冒頭の「段ボールと鉄板」の違いを如実に表してくれる例です。
まず最初に...

「アコースティックギターはサスティンがありますか?」

エレキギターのようなサスティンを有するアコースティックギターって想像できないと思います。それはなぜなのでしょうか。


アコースティックギターは純粋に生音を鳴らすために作られるギターです。(エレアコはそれを電気信号に変換する) 生音を大きくするためには、より大きく空気を振動させなければいけません。
そうです。アコースティックギターは弦に「10」のエネルギーを与えた場合、その多くを空気を振動させる事に使う事が目的のため、弦にエネルギーは残らず、サスティンが短くなるのです。

③S7G / メタル系ギター


基本的にはLPタイプと同様の構造と言えるメタル系ギターです。ボディに振動を逃がさず、弦の振動をキープするような構造になっているのがほとんどです。ボディは厚かったり重かったり、ネックは太かったり硬かったり。

S7Gではあまりトレモロユニット搭載のモデルが無いのも、テクニカルよりはヘヴィなメタルサウンドを追及しているからです。

このあたりはS7Gのサウンドがどの方向性で、どういった意図で製作されているかの回で詳しく触れますね。

■まとめ

これで「鳴り」というのが「弦鳴り」「ボディ鳴り」「ネック鳴り」等「どこが鳴っている」かでサウンドが変わり、その楽器の得意ジャンルが変わる事をご理解いただけたかと思います。

楽器を取り扱っていると、よく聞くフレーズを見てみましょう。

  • ネックが鳴っていないから、このエレキギターは鳴らない、悪いギターだ
  • 生鳴りが大きいから、このエレキギターはアンプに通しても良い音がする
  • ボディがよく鳴っているから、このギターはサスティンも長い

ここまで読んでいただけると、どれも「?」が付く表現であると気付いて頂けると思います。

  • ネックが鳴っていないから、このエレキギターは鳴らない、悪いギターだ

    ×

    弦鳴りの大きいギターではありませんか? アンプにつなぐと他のギターよりも音量が大きく、サスティンがあったりしませんか?
  • 生鳴りが大きいから、このエレキギターはアンプに通しても良い音がする



    そういったサウンドが好きなのであれば、その人が「良い音」と表現することは否定は出来ません。しかし生音にエネルギーを使っているので、アンプへの電気信号は小さくなっているという前提を理解しておかなければいけません。
    それが「良い」/「悪い」と断定する事は危険だと思います。
  • ボディがよく鳴っているから、このギターはサスティンも長い

    ×

    先述の通り、ボディがよく鳴る楽器の代表格、アコースティックギターはサスティンが短いです。この表現は対極の2つの事項を繋げてしまっています。

そのギターはどこを鳴らすように設計され、製作されているのかを理解して、ご自身の鳴らしたいサウンドにマッチするかを判断する事が重要ですね。

次回は「鳴り」を考察する際に同時に理解しなければいけない「倍音」に触れてみようと思います。

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