ゆるかわイラストと振り返る♪クラシック音楽の歴史~フランス音楽編~

皆さんはクラシック音楽と聞くと何を思い浮かべますか?

 「バッハ」や「ベートーヴェン」といった作曲家、「バロック音楽」や「古典派」といった時代を表すキーワード、あるいは特定の楽器や楽曲を思い浮かべる方もいるでしょう。しかし、特定のジャンルのことはよく知っているけれども、それ以外のことや、それらを繋ぐ線、つまり音楽史の大きな時代の流れについてはあんまり……という方は多いのではないでしょうか?

 以前、ツイッターであるイラストが話題になりました。やまみちゆかさんの手によって描かれた、クラシック音楽の有名な作曲家たちの年表です。とてもかわいらしい作曲家たちの姿と、年表のわかりやすさから好評を博しました。今回は、この年表を足掛かりにお話していきたいと思います。

バロック時代からロマン派まで様々な作曲家たち

 まず一番最初に描かれているのがバロック時代の作曲家、バッハとヘンデルです。ともにドイツ生まれで同い年の彼らは、それぞれ「音楽の父」「音楽の母」と称されるほどの大作曲家で、一般によく聴かれるクラシック音楽の多くは、この二人が生まれた時代以降に書かれたものになります。次に来るのが「ウィーン古典派」の三大巨匠、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン。「古典」の名が示すとおり、彼らの音楽はその後の作曲家たちの規範となりました。

 彼らに続くのが「ロマン派」の作曲家たちです。たくさんの歌曲を作曲したシューベルトは「歌曲王」の名で知られています。それから〈結婚行進曲〉でお馴染みのメンデルスゾーン、「ピアノの詩人」ショパン、そしてシューマン、リスト、ワーグナーと、たった5年の間に大作曲家が次々と生まれているのが分かります。そのまた少し後の世代にブラームスやチャイコフスキーがいて……。

 この年表は当時すでにイラストができあがっていた作曲家が集められたものですが、この人数で一般に親しまれている作曲家を挙げてと言われたら、おそらく誰しも似たような人選になるのではないでしょうか。

 ここで「おや?」と、お気付きになられた方もいらっしゃるかもしれません。実はこのように、クラシック音楽で一般的に有名な作曲家たちの多くは、ドイツとウィーン、すなわちドイツ語を母国語とする国にルーツを持っています。ポーランドを出身とするショパンのような作曲家もいますが、彼が活躍したのは祖国ではなく、「芸術の都」と謳われたパリでした。

「芸術の都」を持つフランスの作曲家

 そんな「芸術の都」を持つフランスの作曲家はというと…この年表ではクロード・ドビュッシー(1862-1918)とモーリス・ラヴェル(1875-1937)しか見当たりません。ではそれ以前にフランス人の作曲家はいなかったのでしょうか?

 もちろんそんなことはありません。しかし、仮に彼らの先輩にあたるフランス人の作曲家たちの名を挙げることができたとしても、その時代のフランスではどんな音楽が生まれていたのか、それがどのようにして後のドビュッシーやラヴェルの音楽へとつながっていったのか、そうした説明を試みようとすると、意外と難しいものです。

 事実「フランス音楽」といえば、多くの方がまず思い浮かべるのはドビュッシーの音楽でしょう。たとえばピアノ曲〈月の光〉。表題から連想されるイメージと実際の曲想の結びつきが強いのか、この〈月の光〉は名前だけで「ああ、あの曲ね!」とわかる方も多いようです。

 ドビュッシーは「印象派」あるいは「印象主義」と称される、フランス近代音楽の大きな潮流の先駆けと言われています。当時「ドビュッシー主義」とも呼ばれたこの新しい音楽表現は、それまでの音楽とは一線を画すものでした。


 一方のラヴェルは、ドビュッシーより13歳も年下でありながら、時にドビュッシーに先んじる一面も見せた作曲家です。彼の作品でもっとも有名なのは、その名旋律で知られるバレエ音楽《ボレロ》に違いありません。スネアドラムによって延々と刻まれる三拍子の特徴的なリズムの上に、様々な楽器で同じ旋律が繰り返され、徐々に楽器が増えてゆくと、最後はまるで何かが決壊したかのような大音量で劇的な終わりを迎えるという異例の音楽で、管弦楽(オーケストラ)の魔術師と称されたラヴェルの手腕が遺憾なく発揮された作品と言えるでしょう。

おわりに

 今回は年表イラストから西洋音楽の歴史を振り返ってみましたが、この連載記事では、ドビュッシーやラヴェルをはじめとした作曲家たちによるフランス音楽の歴史や変遷を、当時の楽器にまつわるエピソードを交えながら紹介していきたいと思います。そこで明かされるフルートやヴァイオリンといった、私たちがよく知る楽器の意外な事実を知ることで、普段の音楽鑑賞や楽器の演奏がよりいっそう身近に感じられるようになるかもしれません。

 豊かで魅力的なフランス音楽の数々を、そしてやまみちゆかさんの素敵なイラストを、どうぞお楽しみに!

続く

著者・イラストレーター紹介

著者】川上 啓太郎

川上 啓太郎
昭和音楽大学および国立音楽大学大学院修士課程を経て渡仏。パリ地方音楽院音楽書法科・楽曲分析科の両専門課程に学ぶ。現在は国立音楽大学大学院博士課程音楽学研究領域にてシャルル・ケクランに関する博士論文を執筆中。ケクランの遺族やカッセルのアーカイブの協力のもと自筆譜を研究し、その情報を演奏者に提供している。2021年に音楽之友社から出版された『ケクラン やさしいピアノ作品集』には校訂協力として携わる。上野学園大学短期大学部非常勤講師、同中学校・高等学校特別非常勤講師。

【イラストレーター】やまみちゆか/Yuka Yamamichi

やまみちゆか/Yuka Yamamichi
長崎県出身。長崎大学教育学部音楽科卒業、同大学院修了。第2回ヨーロッパ国際ピアノコンクールin Japanで2位を受賞。第1回伊勢志摩国際ピアノコンクールで特別賞を受賞。長崎県内を中心に演奏活動や指導の他、テレビ、ラジオ放送に楽曲を提供するなど作編曲活動を行う。2018年に『マンガでわかるはじめての伴奏法』を自費出版。2021年に『ぼく、ベートーヴェン』(カワイ出版)を出版。現在はtwitterでクラシック音楽の作曲家の紹介漫画を連載中。
■Twitter @yamamichipiano

この記事を書いた人

川上 啓太郎

フォーレの弟子でラヴェルの友人だったフランスの作曲家シャルル・ケクランを研究しています。連載記事というものを書くのは初めてですが、面白いお話ができればと思います。よろしくお願い致します!