大井健スペシャルロングインタビュー【前編】(3/4)

大井健 インタビュー写真

進む道を決定づけたレジェンドとの出会い

島村楽器スタッフ
今回の映像作品(DVD/Blu-ray)の中で大学院に進学についての話をされていましたよね。教授に連れていかれたって(笑)
大井
高校大学と7年くらい国立(国立音楽大学・付属高等学校)にいたので他の空気を吸ってみたいという気持ちはありました。でも大学院はこれまでの延長線のような気がしていて。それよりは、実地でコンサートをして得るものもあるんじゃないかと思って、先生にそれをやりたいと伝えたら、大学院だけは行きなさいと言われて少しケンカになりまして(笑)。それで国立の附属高校の校長先生のご自宅に連れていかれて、ここの部屋に1年間住んで大学院の準備と演奏活動を両立させなさいと。すごく面倒見が良い先生でしたし期待して頂いてたんでしょうね。
島村楽器スタッフ
でもその時代が今に通じているんですよね?
大井
そうですね。同時期にレジェンドというオペラグループの伴奏に誘って頂いたんです。そしたらコンサートの予定がどんどん増えて忙しくなってしまって。そのコンサートにその校長先生の奥様が見に来てくださったことがありまして、「こんな素敵な演奏(伴奏)をやっているんだったら、あなたもうこの道で行きなさい」って後押しして頂いて。なので結局大学院は受験しませんでした(笑)
島村楽器スタッフ
大学では副科で声楽を学ばれていたそうですが、レジェンドとの出会いはその繋がりだったのでしょうか?
大井
いえ、実はそこは全然関係がないんです。レジェンドというグループが結成された時に、ピアニストも男性にしたいという思いがあったそうなんです。しかしメンバーにはピアニストのつてが無かったので国立の先生や在校生にピアノを任せられる男性がいないかって聞いたら、僕の名前を挙げてくださった方が多くいたらしく、それで引き合わせてくださったんです。
島村楽器スタッフ
まさに運命の出会いですね。
大井
本当にそうですね。レジェンドの伴奏ではあらゆるジャンルの曲を色々な場所で弾いたのですごく鍛えられました。今の僕の活動はその10年の伴奏経験があったからだと思っています。そのまま大学院に行って、ソロの勉強をしてコンサートを少しずつ開催して、というパターンだったら、このようなインタビューの機会もなかったと思います。クラシックの世界だけではなく、クラシックが好きな方以外にどうやったら楽しんで頂けるかということをずっと考えていましたから。それが今の「Piano Love」に繋がっていると思います。
島村楽器スタッフ
最近男性のピアニストの方が増えてきているように感じますが、クラシックだけに囚われていないという印象がありますよね。自作の曲やオペラの曲を演奏されていたり、色々なものを取り入れられてる方も多いですし。
大井
僕もそう思います。やはりクラシックってどこか閉鎖的に捉えられていると思うんです。だから色んな方に聴いてほしいと思います。僕が弾いた演奏でクラシックが好きになって、気付いたらクラシックの世界にどっぷり浸かっていた、というような方もいますから。そういうお話を聞くとすごく嬉しいです。
島村楽器スタッフ
人前で演奏されるようになって、変化してきたことなどはありますか?
大井
昔は自分はこんな弾けるんだ、ということを見せる為に練習していた節がありましたね。コンクールでも入賞しないといけないし、いかに優れてるか見せるということを追究していたと思います。でもお客様の中にはそこは全く求めてない方もいらっしゃるんですよね。純粋にピアノの生演奏を聴きたいという方も多かったりするんですよ。そういうことに気付いてから、人に寄り沿うピアノってどういうものなんだろうっていうことをすごく考えるようになりました。

探求心から得るインスピレーションも演奏表現に深みを与える

島村楽器スタッフ
ピアノ以外でもご趣味や気分転換でされていることはおありですか?
大井
読書は好きです。音楽と一緒で、文学って人の一生を疑似体験できるというか、人生のシミュレーションができるんですよ。そういうのが面白いなと思っています。
本で演奏のシーンが書かれていたりすると、読み込んでしまいますよね。そこから自分の演奏へのインスピレーションが得られることもあります。
島村楽器スタッフ
お散歩もされていましたが、体を動かすこともお好きですか?
大井
そうですね、散歩や水泳、あと去年ヨガを始めました。少し体調崩した時に、予防には体を柔らかくするストレッチがいいと聞きまして、調べながらやり始めてみたら調子も良くなって体の可動域も広がってきましたね。
島村楽器スタッフ
国立競技場周辺はお気に入りの場所だったりするのでしょうか?
大井
広い所って好きなんですよ。都心だとなかなかそういう広い場所はないですけど、あの場所は東京体育館や広いプールがあって、昔住んでいたドイツの雰囲気に少し似ていて懐かしい感じがするんです。散歩をしている方やバスケットボールを練習してる子達がいたり、色々な人が色々な用途でそのエリアに存在しているっていう空間が好きで。
島村楽器スタッフ
もしピアニストになっていなかったとしたら、どんな職業に就きたかったですか?
大井
そうですね、子供の頃は宇宙が大好きで、小学校の文集にはNASAで働きたいって書いたんですよ。宇宙って謎が多い分野じゃないですか。未だに全容がわからないものを研究して解明していくという職業にとても興味があったんです。今でも宇宙に関するニュースは興味津々で見てしまいますね。生きているうちに火星に行けるようになるかどうか・・楽しみですね。
島村楽器スタッフ
これまで全国各地で演奏されてきたかと思いますが、印象に残っている演奏会や会場・ピアノなどはありますでしょうか?
大井
広島の旧日本銀行で被ばくピアノを弾かせて頂いたことがありまして、ショパンを演奏したんですけれど、特別な空間で特別なピアノを弾いたという記憶は今でも覚えています。外観は多少傷んでいる部分もあるんですけど、音はとても透き通っているんですよ。そのギャップも含めて、非常に感動的でしたね。
ピアノのメーカーについてはこだわらず、むしろ行った先々で響きが違う色々なピアノを弾けるのが楽しみなんです。