大井健スペシャルロングインタビュー【後編】(3/4)

大井健 インタビュー写真

「自分にもピアノが弾けるかも」に必要なきっかけ

島村楽器スタッフ
根本的な話になってしまうかもしれませんが、ピアノに全く触れる機会がない方が始めるようになるためにはどうしたら良いと思われますか?
鳥居
私が子供の頃はデパートの広場で電子オルガンのミニコンサートみたいなイベントが頻繁に開催されていたんですが、コンサートホールではなくそのような一般的な場所で気軽にピアノの演奏が見られる機会が増えるといいですよね。
大井
海外だと街中で普通に演奏している方がいる光景ってありますもんね。
島村楽器スタッフ
そこで演奏を見た方が実際に始めるきっかけとして何が必要だと思われますか?
大井
子供になにか習わせるんだったらピアノっていう時代がありましたよね。高度成長期で多少高額なピアノも一般家庭に普及しやすかった。あの時代はいろんな要因が積み重なってピアノを習う人口が増えたと思っています。最近ダンスを小学校の授業でやるようになりましたが、それはきっと数年後のダンス人口増加に繋がりますよね。そのように義務教育の中で鍵盤を触って音を鳴らすという機会を子供時代に持てるかというのはかなり大事だと思います。そしてバイオリニストの葉加瀬太郎さんのような誰もが知っているアイコンのような方がピアニストにも現れたら更に変わっていくでしょうね。そういう下地を僕らのようなクラシックの世界から少し飛び出そうとしているピアニストがつくっていかなきゃいけない。
島村楽器スタッフ
そのような下地づくりで大井さんが心掛けていらっしゃることはありますか?
大井
そうですね、ピアノのコンサートと言うと、どれだけテクニックがあって、間違いなく速く弾けるかというところがクローズアップされがちなんですけど、「もしかしたら私にも弾けるかもしれない」とお客様に思ってもらえるような曲や弾き方をすることによって、触発されると思うんです。そこを意識した演奏をしているのでお客様から「電子ピアノ買って始めてみました」とか「自宅でホコリ被っていたピアノをもう一度開けてみた」というお声を時々いただくことがあってとても嬉しいですね。

ピアノもピアニストも時代に合わせて進化していく

島村楽器スタッフ
ピアノは本体が大きく、持ち運んで演奏するのがなかなか難しいので、もっと手軽に演奏できる鍵盤(機種)が必要になってくるかもしれないですね。
大井
うん、可能性はありますね。
鳥居
海外のピアニストの方で、移動中の飛行機の中で弾きたいから折り畳めるコンパクトなものがないかというお問い合わせはいただいたことがありますね。そういう、環境を選ばずにピアノの演奏ができるというのは普及の大きなポイントでしょうね。
島村楽器スタッフ
アコースティックピアノが本物で電子ピアノは模倣したものという認識の時代から電子ピアノが単体の楽器として受け入れられるようになってきているので、外観や構造もアコースティックピアノを模してなくてもいいという概念になるかもしれませんね。
大井
そうですね、これからもどんどん進化を続けながらゲーム化していく要素もあると思います。僕は進化については肯定的に捉えていて、例えばVRで鍵盤が出てきて弾けると面白いと思いますし。
鳥居
テニスやボーリングがVRで再現できているので技術的には可能だと思います。コンサートホールのステージで弾いてるような感覚を得られたりすると面白いですよね。
大井
それ絶対面白いと思います。一般の方はなかなかステージで演奏する感覚は味わえないですからね。ピアノの進化と共に『ピアニスト』という職業も細分化して、例えば『電子ピアニスト』のようないろんなプロフェッショナルの方がこれから出てくると思うんです。そういう方々がYouTube等のメディアで発信したりコミュニティを作ったりされて活動を広げていかれるでしょうし。
鳥居
そうですね、研究開発している上で気を付けないといけないことがあって、電子ピアノを限りなくアコースティックピアノに近づけるという考えだけでいると、最後まで追い抜けないんですよね。なので『近づける』という考え方を一度捨てて、『超える』ような考えを持たないといけないと思っています。アコースティックピアノではできないような演奏方法や機能があると、電子ピアノを使いたいという理由になりますよね。