大井健スペシャルロングインタビュー【後編】(2/4)

大井健 インタビュー写真

ピアノ=クラシックとは限らない

島村楽器スタッフ
さて、ここからはピアニストの大井さんと、河合楽器電子ピアノ企画開発のご担当である鳥居様にも同席頂いて、楽器の販売店である我々島村楽器も含めた珍しい組み合わせで対談形式のお話をしていければと思います。
大井
すばらしい!『ピアノを弾く人、作る人、販売する人』ってなかなか無い組み合わせで面白いですね。
島村楽器スタッフ
ピアノを演奏する人をどのようにして増やしていけばいいのかということを、それぞれの立場で想像しながら自由に語っていければと思っております。
鳥居克彦
壮大なテーマですけど、それについて常に考えている人たちがこうやって集まるのはとても貴重な場ですね。
大井
最近ピアノを買う方やお教室に来られる生徒さんが減っているという話を周りから聞きますが、それはメーカーさんや販売店さんの実感としてもありますか?
鳥居
全体として電子ピアノを購入する方は、昨今少子化と言われている割にはまだそこまで減っているようには感じません。
島村楽器スタッフ
しかし、このままではいずれその影響は出ると思います。ですのでシニアの方を含めたもっと多くの大人の方にもピアノを始めていただきたいですね。
大井
ピアノを始める方は情操教育の一環として子供にピアノを習わせるパターンと、昔からピアノに憧れていたり、もう一度始めてみたいという大人の方、という大きく分けて二つのケースがありますよね。そういう方々にとっては電子ピアノは使い勝手がいいかもしれません。
鳥居
使いやすいということであれば、昔発売した『es1』という電子ピアノが大ヒットをしたんですけど、若いお客様だけでなくシニア層の方の購入も非常に多かったんですよね。シルバーのボディにパステルの色合いを付けたバリエーションを作ったりしたんですけど、受け入れていただきやすい商品だったのかもしれません。
大井
それに加えてピアノを弾くことが健康寿命のお供として効果的という認知をしてもらえると、始める方は更に増えるのかなと思ってるんですよね。ちょうどそのくらいの時期に脳トレって流行ったじゃないですか。
鳥居
それはあるかもしれないですね。アメリカで老後の楽しみのためにオルガンが多く売れた時期があったんですけど、日本もこれから体は元気だけど老後に何をしようかなと考える方がいっぱい出てくるのかなと。その場合日本ではオルガンというより電子ピアノが一般的でしょうね。そういう時に大井さんのような方がピアノ弾いている姿を見て憧れたり、聴いた曲を弾きたいと思ったり。やはりピアニストが多くの人の目に触れていくことによって、触発される方が増えるのではないかなと思います。
大井
これは僕の個人的な考えなんですけど、クラシックピアニストと呼ばれる人は既にたくさんいらっしゃるので、そこを僕が目指していかなくても安心だと思ってるんです。クラシック好きの方やピアノの演奏を聴くのが好きな方は自分で楽しむ方法をもうわかっていらっしゃるので、何か手を差し伸べなくてもどんどん音楽に溢れた世界を創っていける。そうではなくて、まだ迷ってる方に聴いてもらいたくて。「私もピアノ弾いてみたいな」って思って頂けるアイコンのような存在はすごく大事だと思います。
鳥居
たしかに純粋なクラシックのピアニストとは別のカテゴリでピアニストがピアノと一緒に露出されると効果がありそうですね。
大井
ピアノの極め方って一つじゃないというか、どうしてもピアノというとクラシックを弾くためにあると囚われがちですよね。例えば僕は『鍵盤男子』をやっていますが、ロックやアニメの曲もピアノにすごく合うし、クラシックではない曲をピアノで弾くということが決して邪道ではなくて一つの可能性としてある、ということを伝えていくのはとても大事だなと思っています。

電子ピアノが果たす役割とは

鳥居
この10年の電子ピアノの進化はすごいんですよ。10年前のモデルをお持ちのお客様が電子ピアノを買い替えに来られた時などは皆さん驚かれますね。
現実的な話ほとんどのご家庭で本物のピアノを買うって、金額面や住宅事情でなかなか厳しいじゃないですか。でも電子ピアノなら音量の問題もクリアできるし、レッスンにも使う方が増えています。そういう意味では電子ピアノはこれからも進化をしていかないといけないと思いますね。
大井
その通りだと思います。電子ピアノの役割はもうそういうレベルにあると思いますね。
鳥居
お客様に「いい音だね」と思っていただけるフェーズまでは進化していると思いますので、ここから先はピアニストの方からのご意見やご感想を取り入れていくことがとても大事になってくると思います。もっとここを良くして欲しいとか、こういう機能を追加して欲しいというような。そのようなご意見が進化の糧になりますが、大井さんから見ていかがでしょうか?
大井
僕らのようなピアニストは、プロとしてのタッチや表現力を工夫して演奏をしていますが、音響効果や打鍵の補正などでそのような演奏に聴こえるピアノがあれば面白いですよね。でも今日触らせていただいた電子ピアノ(CA9800GP)もそういう可能性を秘めていますよね。
鳥居
そうですね、プロの方は個々のアコースティックピアノに自ら合わせて弾き分けることができると思いますが、一般の方がバリエーションを変えて弾くというのはなかなか難しいのですからね。今後の進化では電子ピアノにAIが搭載されて、演奏が一番うまく聴こえるような補正などもできるようになるかもしれませんね。